ぁんっ!

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「マー君、私達はね結局は息子が可愛いのよ。あの子が一生懸命に好きになっ  て、一生懸命に尽くせる相手が出来たのならそれが例え同性であろうとも  見守ってあげたいの。確かに孫って響きは魅力的よ?けど、それよりも  きっと何よりも、朱羽が心から笑って生きていける事の方が幸せなのよ。」 綾子さんは僕を優しく抱きしめながら、僕をなだめる様に、まるで母親に慰められている様に話した。ホッとするようで、余計に悲しくなってしまうのは何故なんだろう・・・。きっと僕は、悔しいんだ。自分が男に産まれてしまった事が悔しくて仕方ないんだ、何も残してあげられない事が悔しくてたまらないんだ。こんなに悔しいのに、何もできないことが情けないんだ。 「―――朱羽はね、マー君が男であろうが関係ないって。”愛斗”という人に  自分は惚れているんだって言ってたわ。早い段階であなたを婚約者に指名  してきたから、そりゃ周りもびっくりしちゃってね。でも彼の意志は強く  硬いものだったの。愛斗を妻に出来ないなら一生結婚なんてしない!なんて  言い出すのよ?本当にあなたの事が愛おしいと思ってるの、だからね、お願  いだから自分をそんなに嫌わないで?あなたを愛している人もいるのよ?」 誰かにこんなに必要とされた事なんてなかった、僕自身が見えていないだけでこんな風に想われていたなんて知らなかった。いつも甘くて優しい空気の中に包まれてたから気が付こうともしなかった。自分にも自信がないから見ようともしなかった。 「――――あ、ありがとう、ございます・・・っ。」 僕も鶴城さんの事が大好きなんです、気持ち悪くておかしい子だと言われてもそれでも、もう僕は彼の事が大好きなんです。 僕は男だから血を残すことは出来ない、でもその分、ううん、それ以上に彼に幸せを感じてもらえるようにしたい。僕が出来る範囲であればその中で精いっぱい彼を笑顔にしたい、安らぎを与えたい。 この大祭が終わったら正式に僕は鶴城さんの婚約者になる。いままでくずっていた感情がすっきりと晴れて、ちゃんと真っすぐにこの事実を受け入れられる気がする。ちょっと待ち遠しい位だ。 「さぁ、綾子さまも愛斗様も、お話はここまでにして、美味しいお茶でも飲み  ませんか?」 小春さんがタイミングよく話しかけてきた。僕たちは互いにやんわりとほほ笑み合うと彼女の言葉に従う事にした。 小春さんの淹れてくれた梅昆布茶はいつも以上に美味しく感じた。 「・・・美味しい。」 僕がぽそっと溢した言葉に彼女はとても満足そうに微笑んでいる。 ネット仲間に聞いて入手してきただけあって、今まで飲んできたお茶とは全く味が違ったのだ。 「ヤバいわね、こんなにおいしいと私までハマりそうよ!夏場に飲む梅昆布茶  ってこんなに後引く感じだったっけ?いや、そもそも梅昆布茶ってチョイス  が渋くないかしら?でも、いいわね・・・。」 綾子さんも気に入ったらしく、そこからは暫く梅昆布茶会が開かれた。 僕たち3人が陣取っているこの部屋には終始誰も入ってくることはなく、外のざわめきも聞こえてこない。だいぶんと奥まった場所にある部屋だから、隔離されているような感じなのだろう。沢山の人の出入りがあるはずなのに、人の足音も全然聞こえてこなかった。 「お祭りの準備ってどこまで進んでいるんでしょうか?ここは本当に静かで  何もわかりませんね。」 「うーん。私達には出来る事って限りがあるから、神職でなければできない  ”仕事”ってあるからね。こうなると私達は呼ばれるまで待機ってやつね。」 綾子さんはパソコンで仕事をこなしながら僕の質問に答えてくれる。 僕と言えば、こう見えても受験生だから一応は勉強みたいなことをしている。 小春さんは、外の人と連絡を取り合っているのだろう。スマホを見ては外へいったり戻ってきたりと彼女なりの”仕事”をこなしているみたいだ。 「夕方からちょっと忙しくなるみたいだし、マー君眠っておくなら今よ?」 「え・・・?夜通しなんですか?」 「うん、祭事って色んな部類があるし、その神社でやり方は違うらしいんだけ  どさこの時期のこの大祭は夜通し。」 僕は綾子さんの言葉を聞いて愕然とする、だって、鶴城さんと僕は今朝までほとんど・・・こう・・・なんというか・・・その・・・。 鶴城さんがいくら絶倫とは言え、何日も寝なかったらマズい気がする。
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