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「も、とにかくですね?鶴城さん寝不足の状態で夜通しなんてしたら多分
いくら何でも倒れてしまうと思うんです。僕・・・心配なんです。」
”カシャッ、パシャッ” と、なぜかこんなにも真面目な話をしている僕をスマホでしっかりと記録する小春さん。そんなに僕の顔はおもしろかったのだろうか?
「んーーーーーっ!可愛い!マー君今の顔可愛いわ!朱羽の事を想って心配
する乙女の顔って感じ。こんなのあの子が見たら興奮するわよね!眠気も
吹っ飛んじゃうわよね。これは寝不足になるのもうなずけるわ。」
僕の顔を見て眠気が吹っ飛ぶなら、僕だって授業中に自分の顔を見るよ。
朝、鏡で見たって全然眠気なんて吹っ飛びませんけどー?もう、いい加減その脳内変換異常事態を正常運転に戻してはくれないだろうか。
「はぁっ・・・最高です。愛斗様ご心配なさらなくても大丈夫ですよ?だって
夜通しとは言っても必ず仮眠時間は取るようになっているんです。兄さまも
毎年そうやって交代していますし、大丈夫です。1人で火守りするわけじゃ
ないんですよ。」
ここで漸く小春さんの脳内変換が正常運転になってくれた。まだ完ぺきとは言い切れないが、綾子さんよりは会話が可能だ。
「交代なんですか?それは僕たちも参加できるんですか?」
僕が今のうちに軽く眠っておけば鶴城さんの事を休ませてあげることが出来るもし僕も参加できるのならば、彼を少しでも休ませてあげたい。僕が彼の為に今できる事と言ったらこんなにも小さなことだけど、何もしないよりはずっといい。
そう思って食い気味に小春さんに聞いてしまう。圧が強かったのか小春さんはちょっとのけぞって、そして困ったような表情になった。
「申し訳ございません、これは神職の”仕事”です。」
この言葉でこの先何を言われなくてもわかる、僕たちに出来る事は何もないと
僕はまたただ黙って鶴城さんの帰りを待つだけになるという事が。
「マー君、そんなあからさまに落ち込まないで。気持ちはわかるわ、でもね
私達はあの人たちの妻や妹だったりするだけで決して神職ではないのよ。
同じ土俵に立つことは出来ない、だって皆それぞれが違う職種なんだもの。
私の仕事を翠一さんが手伝えないように、わたしも彼の仕事は手伝えない。
どんなに好きでも踏み込めない場所っていうのはあるのよ。」
綾子さんのいう事はドスンと僕の腹に落ちた。何かできる事をと焦って考えていたけども、そもそも僕と鶴城さんとは立っている場所が違う。
彼は彼の特殊な環境に身を置いているのだから僕がそこに同じように入ってくことは難しい事なのだ。僕の向かっている先は鶴城さんと同じところではない
「あぁ・・・どうして僕はこうやって焦ってしまうのかなぁ。もっとちゃんと
考えればわかることなんだけど、どうしても感情が先に動いてしまうんです
真央の事だってそうだ、何とかしてあげたいと思ってしまって焦る。」
そう、いつもこうやって先走ってしまうのが僕の悪い癖なんだ。他人と関わりたくないと思うのも、もう二度とあんな風に人が離れていく事が嫌だという事があったけど、それよりも結局はまた自分の近くに人が寄ってきてしまったら、その人の為に何かをしてあげたいと思ってしまうことが嫌なんだ。
離れてしまった友人たちの事を僕は恨んではいない、だって仕方のないことだとおもっているから。今、もしあの時の友人だった人たちに会ったとしても、きっと僕は何もなかったように振舞える。まぁ、自分から話しかける様な事はしないけれども。
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