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しっかりと挟み込まれてしまったら眠れないんじゃないかと心配していたが、人肌の心地よさですんなり眠れてしまった。
ふと目を開けると、窓の外の色が暗く変わっていた。
「あ・・・もう、夜になったんだ・・・。っていうか・・・く、苦しい。」
身体を動かそうにも言う事を聞いてくれない。一体どうなっているのかと、出来る限りの動きで確認してみた。
上半身は綾子さんにガッチリと掴まれ、下半身は小春さんがとぐろを巻くように絡みついている。これでは起き上がることなど不可能だ。
諦めて枕に頭の体重全てを委ねて、全身の力を抜いた。
ぼんやりと天井を眺めていると、この部屋に向かって歩いてくる足音が聞こえてきた。ここまで奥まった場所にある部屋に来る人など限られている。
襖戸がスーッと開いて、顔をにょっこりと出してこちらを覗いている。
僕の方からは逆光になってよく分からない。
「――――真っ暗って・・・。」
鶴城さんの声だ、休憩なのかもしかしたら仮眠の時間なのかもしれない。
僕は身体を起こそうとするが、この2人のしっかりとしたガードは容易に解けそうにない。モゾモゾ動いてみるが全く無反応でどれだけ深い眠りにはいっているのかと思ってしまう。
「まな・・・・・とぉーーーーーっ!?」
ぱちりと部屋の電気が付けられたかと思ったら同時に彼の発狂したような声が響く。そりゃそうだろう・・・。真っ暗な中からいきなりこんな寝技を決められた僕が現れたんだ。逆の立場でも同じ様になってしまう。
「お・・・お疲れ様です、すいませんこんな格好で。」
僕は笑顔とは程遠い顔で鶴城さんにねぎらいの言葉をかけた。全然労い感はないけれども。鶴城さんは一気に僕の所まで距離を詰めてきて2人を引きはがそうとする。でもなぜだろう・・・。すんごい力で離れてくれない。
「ちょっとーーーっ!?上ちゃん!上ちゃーん!大麻(おおぬさ)持ってきて!
こんなの!これってきっと呪いだよね?ここにいるのは地獄の番犬!!」
襖戸の方へ向かって叫ぶ先には、上野さんも疲れた顔で立っていた。そして僕と目が合うとちょっとだけ吹き出した。
いえ、笑える状況ではないんですよ?本当に結構苦しんですよ?
「朱羽様落ち着いてください。呪いではないですし、1人ずつ剥がしていきま
しょう。しかし、この2人完全にこうなる事を狙ってますね。」
2人は大祭中は正装しているから、今は白衣に袴だけになっている。もともと色気があるというのに、こういう格好をされてしまうと余計に上乗せされて凝視できないし、変に意識してしまう。見慣れていないということは不利だ。
2人は僕に絡みついた小春さんから引きはがすことにしたらしく、上野さんが思いっきり引きずるように引っ張っていった。巻き付いていた手足は鶴城さんが華麗にほどいてくれたおかげですんなりと取れた。
上半身をガッチリと掴んでいる綾子さんは、鶴城さんが羽交い絞め状態で引きはがして、その間に上野さんにサッと救出された僕。
「愛斗大丈夫だった?怖かったでしょ?あんな恐ろしい大蛇たちに襲われて!
わたしが祓うから大丈夫だよ、恐ろしい魔物たちだけど・・・」
自分の母親を魔物扱いすなんて罰当たりな人だ、と思いつつも、ここへ来たっきり何時間ぶりかに見る事が出来た彼の顔にうっとりとしてしまう。
たった数時間、窓から顔を見る事も何度もしていたのに、こうやって話すことが出来てこんなにも嬉しいなんて、自分でも驚いている。
「つ、鶴城さん。あの、お、お疲れ様です。か、仮眠ですか?」
ドキドキして言葉がつまってしまう。何を緊張しているんだろう、僕は。
鶴城さんは僕の頬を手の甲でスッと撫でながら
「ううん、仮眠はまだ。ご飯食べようと思って、愛斗と一緒にね。数日でも
離れている時間が多いのは嫌なんだ、仕事ってわかってるけどわたしだって
寂しいという感情はあるんだ。むしろ人一倍あるよ。」
――――知ってる。鶴城さんは僕が学校に行く時間ですらブツブツ文句を言う
最初はわざとやっているんだと思っていたけど、よく知るうちに、本当に嫌がっているということがわかったんだ。
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