ぁんっ!

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学校へ行く事は当たり前のことだけど、わかっていても寂しいと言ってくれる 「僕も・・・僕も寂しかったです。こんなに近くにいるのに、全然遠い。  鶴城さんの声も、息も、何も感じられないから、寂しかったです。」 窓の外からチラッとみえた鶴城さんは確かに格好よくて見蕩れてしまった。 でもその後に押し寄せてくる寂しさは耐え難いものだった。いつもは暑苦しいとおもうぐらいにくっついているのに、今日はそれが許されない。 ほんの一瞬すらも余裕がなくて、早くこの大祭が終わればいいのにと何度もおもってしまったほどだ。 一緒に居る時間が長ければ、多ければ、離れてしまう時間がほんの少しでも寂しさが勝ってしまうなんてことが起こり得るんだと身をもって体験した。 そしてこの感情がとてつもなく苦しいという事も・・・。 僕の言葉を聞いた鶴城さんは、ふわりとほほ笑んで、優しく抱きしめてくれた 大きくて厚い胸板、白衣は薄いからその形も肉付きもよくわかる。そして体温もしっかりと伝わってくる。 溜息がこぼれてしまうくらいに整いきった男らしい顔が段々と近づいてきて、僕は望むままに、望まれるままに目を閉じ身体中の力を抜いて委ねる。 軽く触れる程度の、挨拶のようなキスを何度も唇に落とし、じっと僕の顔を見て大きな手で何度か頬を撫でると、今度は噛みつくような、食らいつくされそうなほど激しくて濃厚なキスを与えられる。 肉厚の舌が口内を自由に動き、彼の舌が触れた場所が尋常じゃない熱を帯びて全身に甘い痺れを走らせる。頭の中も自分の視界も全部、全部彼だけの事しか考えられなくなる。 「ん・・・ふっ・・・はっ、あぁ・・・」 次第に荒くなっていく呼吸が自分のものなのか、彼のものなのかわからなくなる。しがみ付くように背中に腕を回し、白衣が皺になるという事も頭に入ってこない。もうそんな事どうでもよくなる。 今日一日、ずっと寂しかった。鶴城さんのこの優しくて時折、熱の籠ったような視線を向けられる事がなくて・・・。ずっとこうやって見ていて欲しい。 僕が嫌になるほど、僕が恥ずかしくて目を合わせる事が出来ないほど、ずっと見つめていて欲しい。 「―――愛斗・・・こんな所でこんな顔しちゃダメだよ。」 困ったような顔で微笑む鶴城さんに、僕は首をほんの少し傾げて”何故?”と問う。やっとこうやって抱きしめてもらえた、やっとこうやって間近で顔を見ることが出来た、やっと体温を感じることが出来た。 ―――――けど、場所を考えてなかった。僕は・・・ 「ふぉっ!ひーーーーーっ!!ぐぁぁぁぁっ!!」 生き物とは思えないような奇妙な声の方をみるとそこには、女子であろう2人が互いにくっつきあってフルフルと震えている。 「――――あ・・・・・」 時すでに遅し、僕はこの2人に一番”ご馳走”と呼べるべき部分を見せてしまったのかもしれない。その証拠に、小春さんは鼻息なのかなんなのかよくわからない荒い呼吸をしながら潤んだ目でしっかりとスマホを握っている。 綾子さんはその整った顔を完全に崩して、とんでもない事に涎までたらしてニヤニヤと僕たちを見ている。なんとも見っともない、大会社の社長とは思えない、鶴城家当主の妻とは思えない顔だった・・・・。 「つっ・・・・続きを!さぁっ!続きをどうぞっ!ぜひっ、遠慮せず!」 震える手でしっかりとスマホを構えている。こんな時まで後生大事に両手で持ってベストショット狙う彼女の根性には脱帽だ。 「あ、朱羽、あんたはやればできる子だと思ってたわ!最高よ、ホント!」 綾子さんは勝手に昇天気味の表情を浮かべて、我が子をほめまくっている。 いや、だから鶴城さんはやればできる子じゃなくて、普通に出来る子なんだってば。
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