6/25
1441人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
やはり、と言うべきか。バスの中はカオスだった。色んな匂いが混ざって朝から憂鬱という言葉がぴったりと似あう。 僕はいつもの最前列の1人席に腰掛けようとしたのだが、御園さんによってそれは見事に阻止されてしまった。 無理やり一番後ろの広い席まで連行され、両脇にモテ男、モテ女をはべらせ、車内の嫉妬という視線を一身に浴びている。 これほど苦痛な登校はない。早く学校についてくれないかとこんなに思ったことはない。特に盛り上がる会話なんてものはなく、ただただ御園さんも織部君も僕を見てはニコニコ笑い、何でもないことをちょろっと話して、また僕の顔を観察している。 この晒されているような感覚は一体なんだろうか。やっぱり拷問だと思う。 だからと言って視線を気にして楽しいおしゃべりなんてものをする気にもなれず、僕はぼーっとしているだけ。 何時もなら窓際に座って景色を楽しむということが出来るが、それは出来ない このバスに乗ってきている人を観察するほかないのだ。 周りを見てみれば、みんなこの2人の事が好きなのだろう、さっきからちらちらとこちらばかり気にしている。 むしろ変わってあげたい、この拷問のような座席位置。僕は視線で訴える。 けれど、目があった人たちは皆速攻そらして違う方向へと向いてしまう。 こんなに念を送っているというのに、どうしてこの思いは届かないのだろうか 「御木君、結局部活どうするの?」 御園さんが昨日のことについて聞いてきた。本当はこの話をいの一番にしたかったのだろうと僕は思う。 「あー、僕には無理だからお断りしました。あんなに動けませんよ。」 僕がそう答えると、織部君はまだ諦めていなかったらしく 「いや、御木。まだ結論を出すには早いんじゃないか?昨日見ただけじゃ  ちょっとしかわからないだろ?」 いえいえ、何度見てもマネージャーの大変さはかわりませんよ。 選手を陰で支える、縁の下の力持ち。僕がそういうこと出来るたちではないことをいい加減わかってほしい。 いや、そこまで親しくなるつもりもないから、このままでいいかも知れない。 もうなんだか葛藤の連続で頭の中がどうにかなりそうだ! ちょっとでも気を抜くと、昨日の鶴城さんとの事が一気に蘇ってくる。 恥ずかしくてどこかに隠れたくなるほどソワソワする。 こんなに普通に会話をしていても、僕はもう清い交際のできない不埒な男。 身体の関係を簡単に許してしまう残念な男なのだ。 「織部君、気持ちは嬉しいけど、本当に僕には無理なんだよ。それに僕は  家に帰ってからやらなきゃいけないことの方が多いから。ごめんね。」 再度、織部君に入部を断るが、彼はまだしっかりとは納得してくれていないようだった。そんなにマネージャーの数を増やしたいのなら、今このバスに乗っている女子に声をかければいい。きっとみんな二つ返事で快諾してくれること間違いなしだろうに。 「織部君、あんまりしつこいと嫌われるわよ?男は引き際を見極めないとね。  どんなに恰好よくてもみっともなく縋るのはよくないわ。」 御園さんがいい事を言ってくれた。その通りだと思う。この部分に関しては御園さんと意見があっているらしい。僕は心の中で頷いた。 「そんな事言ったってなぁ・・・。御園さんだって気になる人には引き際も  何も考えたりできないだろ?そんなことないの?」 織辺君の質問に御園さんはじっと彼の方を見て、考えいている様だ。 おや?もしかして、御園さんは織辺君の事が気になっているのか・・・? こんなに熱視線を向けられているんだ、バカでも気づくだろう。 しかし、この2人がくっついたらお似合いなんて言葉がチープなものに感じてしまうくらいなんだろうな。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!