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「そうね、織辺君のいう事も当たって居るわ。けど、私ならもっとやり方を  変えてアプローチするわね。だって私は女だもん、幾らでもやりようはある  女の執着ってね、男のそれを簡単に上回るのよ?」 御園さんが御園さんらしくない、若干怖い顔でその言葉を放つ。 隣にいる僕は流石にギョッとしてしまう。 こんなに可愛らしい顔をして恐ろしい事を言うなんて誰が想像できる。 やれ執着だのなんだのと、ここでそういった類の話はやめた方がいいと思う。 見てみろ、聞いていない振りをして、皆耳が大きくなっているじゃないか。 「―――そうだろうな。御園さんって、見た目と中身違いそうだもんな。」 あぁ・・・織辺君は今ここに居る、僕以外の男子を全員敵に回してしまっただろう。学校のアイドル的存在の御園さんに、そんな事を言うなんて・・・ 全く、なんって命知らずなんだ。モテる男は怖いもの知らずで羨ましい。 僕を挟んでこの会話を続けられるこの2人の神経の太さは半端ないと思う。 人に見られる事にも慣れていて、そんな事なんてどうでもいいという考えに至るまでどういった経緯があったのか、そこは知りたい。今後の参考になるから 「ふふっ、織辺君こそ、意外と粘着質で、私もっとさっぱりしてるのかと  思っていたわ。残念なほど諦めの悪い人なのね。」 なんだろう・・・これって会話が穏やかにエスカレートしていないか? 言い合い、とは違うけれども、端々に棘が見え隠れしている。 不穏な空気を感じ取っているのは、僕だけじゃないみたいだ。バスに乗っているみんなの視線がさっきから忙しない。 こっそり見ている、というよりも、おいおい。といったような感じの視線なのだ。 「あ、あのう。もうよくないですか?間に挟まれてこの会話は僕ちょっと  気まずいし、しんどいので・・・。他でやってもらえます?」 僕は勇気をもって発言する。いや、もう限界だっただけなのだが。 バスにはまたいつも通りの静寂が訪れて、僕はまたボーっと運転手さんの後頭部を眺めていた。とにかく早くバスが学校に到着する事だけを切に願って―― いつもよりやたらと長く感じたバス通学。あれから誰も口を開くことはなかったが、雰囲気は最悪と言っても過言ではない。 やっと解放された安堵感は、どう表していいか分からないくらいに爽快だ。 僕は、2人を置き去りにし、とにかく急いで教室に向かった。 早く自分の席に座って、読みかけの本を読んで、いつも通りに時間を過ごしたい。ただでさえ、最近の僕は色々とあり過ぎて、平常心とかそういうものをどこかに置き忘れているのだ。 ゆったりとした時間をとって、一旦落ち着かなければならない。 でも肝心な事を忘れていたが、2人とも同じクラスだからどう頑張っても引き離すことなんで出来ない。結局一緒に揃って仲良く教室に入る事になった。 当然、織辺君の友達がワラワラとやって来るし、御園さんの友達だって来る。 僕らの周りはあっという間に人だかりができて、温度が2~3度あがった気さえしてくる。人気があるというのもなかなか苦労が絶えないのだなと感じた。 僕は人だかりをコッソリと抜け、パーソナルスペースに逃げ込んだ。 ここに座ってしまえば、物好き以外は寄ってきたりしない。 本を取りだし、話しかけんなオーラを全開にし、集中し始める。 けれども、ふとよぎるのはあの人・・・鶴城さんの事ばかりだった。 昨日あんな事をしたからだろうか、それとも僕の心があの変態に惹かれ始めているのだろうか。あの人の事ばかりが浮かんでくる。 頭を何度か横に振り、脳内から追い出そうとするけど、こびりついて離れない 鶴城さんとのキス。大きな手。低くてゾクリとするほど聞き心地のいい声。 妙に色気があって、男であっても嫌悪感を感じさせない不思議な人。 さっきから同じページしか見ていない。文字が全然頭に入ってこない。 これは重傷だ。寝ても醒めても、とはよく言うが、もしかしたらそういう事なのかもしれない。 クラスの男子を見ても、全く、何にも感じない。むしろ暑苦しそうで関わりたくないとさえ思ってる。言い方は悪いが、もし彼らに昨日のような事をされたとしたら、僕は間違いなく発狂する。自我の崩壊は免れない。 けど、あの人は・・・鶴城さんなら、何も思わない。むしろ息が苦しくなったりする瞬間さえあったりする。 僕は一体、どうなってしまったんだろう・・・。
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