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最後まで僕はトラップに掛かることなく、階段を登り切った。 自分の忍耐力をほめてやりたいと思う。階下をみれば、まだ群がって見上げている男子たち。チラリズムの魔力からまだ解放されない可哀想な生贄たち。 「もうっ!返事くらいしてよっ!」 何故、僕は御園さんに怒られているんだろう。意味が分からない。 「はぁっ、はぁっ、だ、だって、上向いたらあなたのパンツが丸見えじゃない  ですか。そんなのイヤでしょう?」 僕は乱れ切った息を整えながら、理由を述べた。本当はこんな事話す必要なんてないのだろうけど、あんまりしつこいから答えた。 「なんだ、そんな事?私、御木君になら見られたって平気よ?」 こんなに気を遣った僕の優しさを返してください・・・。名前を呼ばれるたびに向けられる視線に耐え、いつもよりも3倍速く階段を上って来たこの僕の努力を返してくださいっ! 「僕が平気じゃないんですよ。それに、大きな声で名前を呼ぶのやめて下さい  注目されたりするの苦手なんです。」 別に御園さんの事が嫌いとかそういう事じゃなくて、彼女は自分の人気の高さを理解してないんじゃないかって思う時があるんだ。 僕ごときが御園さんにこうやって声を掛けられることを快く思っていない人間だっているって事をちょっとは知った方がいいと思う。 「ごめんなさい、だってね、御木君お昼になるといつも知らない間に居なく  なってるから、私・・・。一緒にご飯食べたいしね・・・。」 あ、ヤバい。ちょっと言い方がきつかったみたいだ。今にも泣きそうな感じになっている。今ここで彼女に泣かれたら、僕の卒業までの高校生活はどん底になってしまう。 「あー・・・いや、その、ごめんなさい。言い方が悪かったですね。そのー、  僕は昼ご飯1人で食べたいんです。だから、できればそっとしておいて  ほしんですよね。」 「どうしても・・・いや?私と一緒にお昼食べるのどうしてもいや?」 上目遣いで懇願されている。これって、他の男子からしたらご褒美以外の何物でもないんだろうけど、僕にとっては拷問。 イエスという返事をしたら、きっと大惨事になってしまう。 僕は観念して、そんな事はないと、言おうと思った時だった。 「御木、どうしたんだ?さっきから教室に来ないし、探したんだぞ。」 織辺君はピンチの時に現れる王子様なのかもしれません。なんて素晴らしいタイミングなんだろう!! 「あ、あぁ。織辺君、ごめんなさい。何か用事でもありましたか?」 僕は振り返り、ありがとうの意味を込めて笑みを浮かべて返事をする。 本当にここから感謝しているよ、織辺君。 その場に御園さんを残して、僕は織辺君に駆け寄っていった。 御園さんが織辺君と睨み合っていたなんてこと、僕がしるよしもない。
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