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「織辺君を見て格好いいと思わない人が居るなら会ってみたいですね。
僕はそう思いますよ。だから自信もってください。大丈夫です。」
なんとなく友達みたいなごっこ遊び。上辺だけでこうやって人を励ます僕。
自分でやっていて気持ち悪いったらありゃしない。
人と関わるとこうやって無駄に気を遣ったりしなきゃならないのが苦痛だ。
いずれ、こういう関係も簡単に崩れて、裏切られる。人の手の平返しなんて鮮やかなもんだ。だから、適当でいい。
僕は織辺君と話をしながらも、心の中ではこんな事を思っている。
御園さんとどうにかなりたいのなら、なればいい。僕には関係のない事。
「いや、だから、御木っ!」
織辺君が話を続けようとした時、いいタイミングでチャイムが鳴った。
僕はホッとした。だってこれ以上話をしようにも、もう言葉も何も見つからない。これ以上、彼の事を応援することも励ますことも出来ないくらい言葉を伝えているし。
「チャイム鳴りましたよ、さ、教室に戻って授業の準備しましょう。」
僕はこのチャイムに感謝する。今日の5限目はきっと素晴らしいものになるだろう。颯爽と教室に入っていく僕を、織辺君はじっと見ていた。
僕は全くそんな視線には気が付かないが、彼はじっと見ていた。
―――――――――――――――――――――――
初めて御木を見た時の事、鮮明に覚えている。
学校の近くのヒマワリ畑の中で綺麗な笑顔で、おばあさんに向かって手を振っていた。
俺は部活で、外を走っている時だったから、その美しさに見蕩れて足を止めてしまったのだ。
高校に入ってから、何人もの女の子と付き合った。けど、ずっと心にあるのはあの時の御木の綺麗な笑顔だ・・・。
学校で彼を見かけた時、心臓が急に暴れ出してどうしたらいいか焦ってしまった事もあった。こんなのはおかしいと、何度も考え直した。
付き合っている女の子と、ベットに入っても、浮かんでくるのは御木のあの笑顔。忘れられない・・・。
いつも1人で俯いて、本を読んで、誰とも会話をしない。時々いなくなっているからさりげなく探すと、保健室で眠っている。真っ青な顔で・・・
小さくて、細くて、儚い、髪で隠されている顔は、とても美しくて誰にも見せたくないと、俺が思ってしまっている。
御木が俺のものになるのなら、どんなことも出来ると思えてくる。
彼は男だ、俺も男だ。でも、もうそんな単純な考えで抑えられるようなもんじゃないって事、気付いてる。
偶然ぶつかったあの時、俺の腕の中にすっぽりとおさまった瞬間に、これが正しいのだと確信した。見上げて見つめ合ったあの時の顔。
その場を一瞬にして黙らせてしまうほど、美しい顔。物言いだげな瞳。
いつもかたく結ばれている、ぽってりとした紅い唇。瞬きの度に長い睫毛が動いて、なんとも言えない色香を感じてしまう。
晒されてしまった御木の顔に、クラスの何人もが見蕩れてしまっていた。
見せたくなかった、俺だけの秘密だったのに、これでどれだけの人間が御木に興味を持ってしまったのだろう。
しかも、あの御園までが今、御木に気が付いてしまった。
彼女は、御木が思っているような清純派ではない、何人もの男が彼女によって泣かされている。御園香菜は狙った男は確実に仕留める。
俺と御園が御木を取り合うなんて、バカげているかもしれない。
けれど、もう止められない。それに、御木を迎えに来たあの男・・・。
大人のいい男の手本のような人。あの人にも勝てなきゃ御木を俺のものには出来ない。こんなハードルの高い恋愛に首を突っ込むことになるなんてな・・・。
織辺は、教室の自分の席に座って、いつも通りに本を読んでいる愛斗を見ると
1つ小さなため息を吐き、中に入っていった。
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