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車の中は最高に涼しかった。背中に滲んでいた汗もサッと引き、しかも冷たい飲み物で、内側からも冷えていく。 「ありがとうございます。でも、本当に、迎えとかいいですから。」 僕はもう何度目か分からないくらい同じことを繰り返していた。 こうやってここまで来てくれたことは正直嬉しい。なんだかむず痒い感じだ。 でも、この人もニートではない事は分かっている。 やらなければならない仕事があるのなら、そっちを優先にして欲しい。 父も仕事が忙しい人だったからわかる、時間を割く難しさが。 「いいんだよ、わたしがやりたくてやっている事なんだ。それをダメとか  言われちゃったら、悲しくて仕方ない。」 目を見たままニッコリと笑いそういう鶴城さん。この人の底抜けの優しさに段々甘えてしまいそうになってしまう自分が怖いのだ。 だから、今ならまだ全然大丈夫だから、ここまで同じことを何度も言っているんだ。 運転する鶴城さんの横顔を盗み見する。あの唇と僕の唇はもう何度か重なり合っている。こんないい男が、キスをする時は雄の感情丸出しで、僕の全部を食らうかのように艶めかしいキスをするのだ。 優しさんてなくて、ただ純粋に雄として僕を見て、僕を食らう。 鶴城さんとのキスを思い出す度に、僕の身体は甘い痺れに襲われる。 まるでその先の何かを期待しているかのように。 でも決してこの人は無理やり先には進んだりしない。僕のマスターベーションを手伝った時にわかった。 彼もしっかりと反応していたにも関わらず、自分の処理を僕にさせることはしなかった。あの後どうしたかなんて聞けやしないし、気になっていてもどうすることも出来ない。 「けど、鶴城さんにもお仕事がありますよね?僕はその邪魔になりたくない  んですよ。」 僕がそう言うと、鶴城さんは僕の頭をまた撫でながら笑った。 「邪魔だなんて思った事もないし、思う理由がないよ。わたしは、わたしの  時間は愛斗君と共に回って、愛斗君を軸に動くんだ。」 ――――――ずるい。鶴城さんは凄くずるい。 こんな言い方をされて、誰がこれ以上強く断れるというんだ。 こんなに格好いい笑顔を見せられて、どうやって拒めというんだ。 「そんなに嫌がるなら、わかった、こうしよう!わたしに愛斗君の脱ぎたての  パンツを進呈してよ。それなら、我慢してもいい。」 やっぱ変態だった。さっき心臓にギュっとした感情を芽生えさせてしまった自分を酷くなじってやりたくなった。 「もし仮に、仮にですよ、鶴城さんにパンツをあげたとして、何に使うんです  使い道がわからないですよ。」 僕がもしも、タラればの話をすれば、彼は生き生きとして語りだす。 「それは勿論、わたしの夜のご馳走だよ!おかずなんて表現は甘いね!うん、  愛斗君の脱ぎたてパンツはフレンチのフルコースより価値がある!」 そしてやっぱりバカだった。僕のパンツにフレンチを出す辺りがもう、ほんっとに、ただの変態でただのバカだ。 僕はもう今この人と会話することを拒否して、窓の外を眺めた。 もうすぐ家に着く、そして晩御飯の準備にとりかかろう・・・。
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