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織部君も御園さんも僕に好意を抱いているなんて微塵も感じない。
ただ何故だか絡まれるようになったとしか思えない。
「待って下さいよ、僕の今の話で、どうやってそこにたどり着くんですか?
そもそも、僕は人に好かれるような人間ではないんです。むしろ、逆。
気持ち悪いと思われても仕方のない人間です。」
そう、妹の言う通りなのだ。僕は、男に色目を使う気持ちの悪い最悪の人間。
実際、鶴城さんにきっとそういった類の視線を送っているんだと思う。
「うーん、愛斗君はさ、人を好きになるの?それとも、女の子だから好きに
なるの?どっちなのかな?」
鶴城さんの質問は難しい。僕は男だから女を好きになるのは当たり前。
でもきっとこれは正解じゃないんだと思う、人として好きになっているのか、
その質問の意味は深くて難しい。
「・・・多分、僕は男だから、女の子の事を好きになるのが当然だと思って
います。プラスとマイナスだからこそ成し得る事がありますから。」
異性を好きになるのは当然で、なおかつ、出来ればなるだけいい子を見つけたい。そう思うのが、人間の性なんじゃないだろうか。
「そっか、うん。それはごく普通の考えだし間違ってはいないよね。けどね、
けれども、性別関係なくその人間に恋愛感情を持ってしまう事だって
あると思うんだ、わたしはね。そしてそれは決して悪い事ではない。
むしろ、当たり前にとらわれることなく考えられる尊さがあると思う。」
”当たり前にとらわれない尊さ” なんて難しい言葉なんだろう。
僕は、いつだって当たり前、当然にとらわれている。それが常識と言われれば
そうなんだと、納得してしまう。
男が女を好きになるのは当たり前、男が男を好きになるのは異常。
僕の頭のなかはずっとこういう風に変換されているのだ。
鶴城さんの話は、この僕の考え方を根本的に変えてしまうような内容だ。
「けど、そうなったら、子孫が残せません。そうなったら人が居なくなって
しまうんですよ?」
男に子供を産める才能はない。そんなことがまかり通ってしまったら、人類の存亡に関わって来るじゃないか。
「まぁ、またスケールのデカい話だけども。そうだね、でもさ、みんながみな
同性を選ぶとは言ってないだろ?中にはそういう人もいていいって話。
それに、人間だって進化する生き物だよ?もしかしたら遠い未来には、
男女関係なく子供を身ごもれる奇跡が起こるかもしれない。どう?」
鶴城さんがそう言うと、なんでかわからないけど、そうかもしれない。なんて単純に納得できそうになる。
もし、僕が男の人を選んだとしても、おかしい事ではなくて、尊いと思える事になるんだろうか・・・。
「鶴城さんの言ってることは、夢物語ですよ。今の世の中、そんなに寛大な
人ばかりじゃないですよ。きっと、異端児として見られて、苦しむ。」
そう、汚いものを見る様に・・・。仲良しだと思っていた友達だと思っていた人たちからも一気に引かれる。そして周りには誰も居なくなって、たった1人で生きていく事になる。同性のカップルに対しての理解はそう簡単に得られるんじゃない。
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