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鶴城さんがお風呂から上がってこない。かなりの時間風呂場を占拠されてる。 家事全般はもう終わったし、流石に僕もお風呂に入りたいのだ。 だから鶴城さんに声を掛けたら、バカの変態が、変態の為にあるようなセリフを言ってきたので、僕は思いっきりドアを閉めてやった。 むしろその大事な所をひねりつぶしてやりたくなる。 バスルームから人が出てきた気配がしたかと思ったら、いきなりがっちりした身体に包み込まれてしまった。 「愛斗くーん、おまたせっ。お先にごめんねーっ!」 濡れた髪からシャンプーのいい香りがして、ちょっと高めの体温が妙に艶めかしく感じる。こういうことをサラリとやってのけるからこっちは困ってしまう 「離してくださいよ、変態さん。もういい加減やめてくださいよ。」 「変態って、わたしは何時いかなる時も正常ですよ。好きな子を目の前にして  平常心を保っていられるような人がいるならぜひお会いしたいもんだ。」 さっきの話の流れから今こう言われたら、僕の顔は真っ赤になってしまう。 反応しない方がおかしいだろう?それでいてまた耳元で囁くように言われるのだ。昨日とまったく同じシチュエーションになっている。 「もうっ!だから、こういうことされると困るんです!僕はあなたのように  経験豊富ではないのだから、そうやってあの手この手は対応できない!!」 えぇ・・・僕は立派な童貞様ですからね。まともな恋愛すら経験がないんですからね。こんな風にされたらあたふたしちゃうんですよ。 僕の半ばやけくその言葉に、鶴城さんは満面の笑みを浮かべて言う。 「知ってるよー、そんなの全部知ってる。愛斗君について知らない事なんて  何一つないもん。反応が可愛くてさ、ついね。ごめんねーっ!」 ―――くっ、悔しい。屈辱だ!しかもそんな事とうに知っているみたいな言い方で、確かにそれは事実以外の何物でもないけれども、こんな笑みを浮かべてあらためて言われると、恥ずかしいやら悔しいやらで・・・。 「――お風呂入ります。」 僕はこれ以上何も言えなくなってしまった。言葉を発するたびに自分の幼さが露呈していく事が恐ろしくてたまらない。経験では全然足元にも及ばないのだ 僕はバスルームのドアをこれ見よがしに力いっぱい締める。 ばあちゃんに、大きな音を立てないようにしつけられてきたのに、最近はその言いつけを守っていない気がする。ごめん、ばあちゃん。 鏡に映った自分の顔が、真っ赤で、まるで恋する女の子のように潤んだ瞳をしていた事がわかり、僕は必死に顔を洗った。 こんな顔をしているなんて知らなかった。こんなんじゃ、もろに恋してますって、相手に伝えているようなもんじゃないか。 いや、僕はまだ鶴城さんに恋なんてしていない。あの人の大人の雰囲気に惑わされて、冷静な判断が出来なくなっているだけ。 まだ、こんなのは恋じゃない。まだ、違うんだ。 言い聞かせれば聞かせるほど、相手の事を考えてしまうという逆効果になっている事さえ、僕は気が付かない。否定をすればするほど、頭に彼の事が残るのに・・・。 頭の中に居座る鶴城さんを追い出そうと必死にシャンプーし過ぎて、頭皮が熱を持っている感じがする。もし、僕が剥げてしまうような事になったら、それは全部鶴城さんの所為だ。間違いなくそうだ。 だって・・・こんなに誰か一人の為に悩んだことなんてなかったのだから。
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