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風呂からあがり、居間を覗くと、灯りが一番小さいものになっていた。
薄暗くしか照らしていないそこにはもう誰の姿もなくて、僕はなんだか変な気分になってしまった。
いつもなら、風呂上がりの僕の髪を乾かそうとやたらめったら近づいてくるのに、今日はもうそこにいないないのだ、鶴城さんが。
冷蔵庫から、牛乳を取りだし、コップになみなみと入れる。お風呂から上がったら、コーヒー牛乳又は、普通の牛乳。これは全人類の当たり前だろう。
渇いていた喉をスーッと冷たい牛乳が通って、一息つく。
ほんの数十分前まで、ここで鶴城さんに抱きしめられて、耳元で話しかけられ
しかも、人を好きになる事を話していた。
けれど、今ここは沈黙と静寂しかない。それは凄く寂しい。
贅沢な事を考えているのかも知れない、自分の気ままで嫌がったり、寂しいと感じたり。ばあちゃんがいなくなってしまってから、そういった事を考えないようにしてきた。鶴城さんが転がり込んできてから僕の生活は一変した。
毎日、誰かと家で会話ができる環境。ご飯も一人じゃない。
鶴城さんの事を考えるのは、こうやって寂しいとか、嬉しいとか、一人じゃなくなったからなのかもしれない。
溜まっていた寂しさが消化されていく事が嬉しかったから、あの人の事を考えるのかもしれない。
恋じゃなくて、寂しさを紛らわせてくれる人だから気になっているのかもしれない。
彼がいなくなったら、また僕は一人になってしまうから。それがもう嫌なだけなんじゃないだろうか・・・。
でも、じゃあ、あの人の車を見かけた時に、何故あんなに嬉しかったんだろう
どうしてあんなにドキドキしたんだろう。学校へ行っている時は寂しいだのなんだの、何も思わない。
なのに、あの人の車がそこにあるって、分かった途端、急に足が軽く感じたのはなんでだろう。
牛乳をのんだコップを洗い、麦茶のペットボトルを取りだすと、僕は部屋に戻った。静寂があると、余計な事を考えてしまう。
他の音が聞こえてこないと、頭の中で、鶴城さんの声がずっと聞こえてくる
甘くて低い声がずっと耳の中で響いている。
部屋に戻ったと同時に僕のスマホが鳴った。メールを知らせる音だ。
こんな時間に、誰が僕にメールなんて送ってくるのか、特売のお知らせにしては時間が遅すぎると思う。
”おやすみ、愛斗君。わたしは明日も迎えに行くよ。今日は大人しく自分の
部屋で寝る事にします。寝顔を覗いたりしないから安心してね。”
そこには鶴城さんからの恐怖のような、よく分からないメールが届いていた。
沢山突っ込みたいところはある、まず、寝顔だの大人しくだの、やっぱり部屋に鍵をかけていても何かしらの方法でここに忍び込んでいた事には間違いがない様だ。これは通報もんだと思う。
そして、明日もあの人が僕を迎えに来るのかと思うと、よく分からないドキドキと、妙な優越感が身体中を支配する感じがした。
今日だって、彼が僕を迎えに来た時、他の女性が彼をチラチラと盗み見していたことは分かってた。あれだけのいい男ならセンサーが働かない女性の方が少ないだろう。
そんな人が僕だけを迎えに来るという、不思議な優越感。
甘い、甘い、優越感。こんな感覚に陥るという事はつまり、相当ヤバいんだろう。僕の中での鶴城さんの存在が。認めたくない、認めざるを得ない、素直になりたい、素直になりたくない。
こんなこじらせた感情が僕の中で渦となっていく・・・。
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