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また朝がやって来た。今日頑張って登校すれば明日は休みだ。 僕は部活をやっていないから、しっかりとお休みがもらえる。 しかも嬉しい事に、明日は補習が入っていない。こんな素晴らしい事はそうそうない。学校は進学校だから、なにかと補習が多い。致し方のない事とは言えたまには学生も休みが欲しいと願うのは贅沢な事ではないだろう。 「おはようございます。今日も昼ご飯レンジで温めてくださいね。」 僕は居間でくつろいでいる、変態、いや、鶴城さんに声を掛ける。 彼はとにかく、居間にいくと新聞を開きじっくりと目を通すことが朝の日課の様だ。 「はーい、おはよう。分かったよ。今日もご飯楽しみだなぁ。」 小さい子供がお弁当を楽しみにしているかのように思えてくる。 僕も、お母さんが作ってくれたお弁当の味はいまだに忘れたりしない。 「あ、そうだ!明日はちゃんと時間あけておいてね。予定入れて来ちゃダメ!  わたしとの予定が最優先だからねー。」 優先順位は普通こちらが決めるものだと思うが・・・。 まぁ、この人に言っても意味がないだろうことはもうわかっているから、反論もしない。 「わかってますよ、大丈夫です。僕に予定なんてもんは皆無ですよ。」 僕は玄関でローファーのつま先をトントンしながら居間に向かって話す。 早くしないと、僕のバスが行ってしまう!急がないと! 「じゃ、いってきまーす。」 返ってくる言葉を聞くことなく玄関を後にする。振り返りたいけど、きっとちょっと胸がキュッとなるような気がするから、振り返らない。 ”いってきます” か。1人で住むようになってからこの言葉すら言わなくなった。 言っても誰も何も返してくれないのだから、虚しくなるだけ。 そんな空気が嫌だったから、1人の時は言わなかったけど。今は鶴城さんがいるからつい言ってしまう。 そして言葉も返って来るから、それだけで、学校に行く事を前向きに考えられる。 つくづく不思議な人だと思う。どう考えても勝手に転がり込んできた男をこうやって普通に受け入れるなんてあり得ない。 けど、あり得ない事が、あり得るようになっているのだから。 嫌がる僕のガードをフッとかわして、気が付いたらもう懐に入り込まれているような感覚。でもそれが全然イヤじゃないから余計に困る。 今日も、あの人の事で頭がいっぱいになっている。どれだけ頭を振っても出て行ってはくれない。 こびりついているシミのような人だ。本当に、僕はどうしちゃったんだろう。 すれ違う人にも、バスを待つために並んでいる人たちにも一切の興味がなくてずっと鶴城さんのことしか頭に浮かばない。 しかも、この人よりも鶴城さんの方が格好いいとか、あの女の子よりも鶴城さんの方が魅力的だ。とか、知らず知らずに比べていたりする。 これが、恋だというなら僕は本気で覚悟しなければならないんだ。 気持ちの悪い子だという自覚をもたなきゃいけないんだ。 「おはよう、御木。どうした?何か考え事?」 つま先を見つめて考え込んでいると、朝からあまり聞きたくない声が聞こえてくる。どうしてまた同じバスに乗るんだ、織辺君。 「おはようございます。」 僕は一瞬だけ視線を向けると、すぐに真っすぐを見て彼を見ないようにした
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