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織辺君の路線はもっと学校側のはずだから、バス停で一緒になるなんてことはあり得ないし、朝練がどうのこうのと言っていたんだから、この時間に登校なんておかしいんだ。 「どうした?なんか機嫌悪い?」 織辺君はまた当たり前の様に僕の隣に並ぶ。周りを見れば当然女の子たちがこちらを伺うように見ている。 もう、本当にうんざりだ。視線に晒されるのも、無理して仲良くしようとすることも。 「いえ、特に話すこともないですし、僕に構うよりももっと他にしなきゃ  いけない事があるんじゃないかと思って。」 エースがこんな所で油を売っていてはいけないだろう。しかも男相手に! 大会だって近いはずだ、3年生にとっては最後の大事な大会。 その日は学校は午前中で終わるから、僕にとってはありがたいのだ。 「俺は御木と話すこといっぱいあるよ。御木の事知りたいから俺にとっては  それがやらなきゃいけない事なんだけどな。」 薄々気づいてはいたが、この織辺君。意外としつこいタイプの人間だ。 御園さんといい感じで張り合うくらいだ。非常に面倒くさい。 「わざわざここまで来なくても、クラスにいけば話すこともあるかもしれない  織辺君って時間を無駄に過ごす人なんですね。」 僕は思いっきり厭味ったらしく言ったのだ。実際僕がこんなこと言われたら落ち込みまくって大変な事になっているだろう。 「んー、どうだろな。人によってはそう見えるかも知れないけど、でもさ、  俺にとってはこの時間も無駄ではないんだ。教室はいって御木と話をする  なんてことが出来ない可能性の方が高いだろ?だって、すぐに居なくなる  だから、話せる時間を作らないと、俺自身が後悔する。」 織辺君は爽やかな笑顔で僕にこういうのだ。その爽やかな素敵笑顔も、僕の前でやっているなんて無駄な事だというのに。 ちょっと振り返って、後ろの並んでいる女子たちに振りまいたら速攻蕩けてしまうだろうに。 爽やかで、いい男で、スポーツ万能で、勉強も出来て、その上打たれ強い。 僕の欲しいもの全部持っていらっしゃる織辺君が、憎たらしい!! 人の感情というのは羨ましいを超えると、憎たらしいに変わってしまう事を彼は少しは知った方がいいと思う。 「ちょっと何言ってるかわかんないです。僕たちはただのクラスメイトで  それ以上でも以下でもないんですよ?学校に行ったら顔を見る程度の  付き合いでいいんじゃないでしょうか。」 僕はその関係を強く望みます!これ以上僕の生活にガチャガチャとしたものを放り込まないで欲しい。そもそも、高校生活最後だからって、クラスの全員と会話しなきゃいけない決まりなんてないんだ、そんな特別ルール適用されていないんだから、今まで通りでいいじゃないか。 「なあ、御木。俺はそんなもんじゃ終われない。以上でも以下でもないなんて  そんなのは嫌なんだ。親友、なんてものも御木には望んでいない。俺はね  俺は、御木に友達になって欲しいわけじゃない、もっと違うんだ。」 おほっ!!人が居るところで、僕には友達になって欲しくない宣言をしてくるなんて、よくもまぁこんな風に傷つけられるもんだ。 なんだ、結局からかっていただけなんじゃないか。ほんっと、こういう目立つキャラの人間がする事ってわからないよ。そこに意味がないから困る。 「はぁ・・・わかってましたけど。こんな所でそんな発言されるとは思わな  かったですよ。もう僕に構うのはよしてください、揶揄われるのも、  見世物にされるのもごめんだっ!」 僕は流石に怒った。もうバカみたいで、情けなくて。この歳になってもこんな子供くさいことをされなきゃならない自分に、メチャクチャ腹が立つ。 いつまでたっても抜けられないこのループは地獄の様だ。 僕は織辺君に言うと、バス停を離れた。もう歩いて登校しよう。 それか時間をずらして1時間遅いバスに乗ろう。一緒のバスに乗るなんて神経が焼き切れてしまう。 「ちょっと、まってっ!御木っ!!」 歩き出した僕の腕をがっしりと掴んできた織辺君。顔を見たくないと思っている相手にこそ、こうやって執拗な嫌がらせを受けてしまうのが僕。
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