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「――――っ!―――――とっ!まなとっ!!」 聞える声にうっすらと目を開けると、どアップでいい男の顔が映る。 心配そうに僕を見て、眉間にはしわが寄っている。 「――――鶴城・・・さん。」 僕はその人の名を呼んでみた。すると彼は目を大きく開き、やっと安心したように笑顔を見せてくれた。 「ほんっとにもう、君はわたしを心労死させる気かい?」 僕の髪をクシャリと掴み、ゆっくりと撫でてくれる。なんとも心地よい。 僕は目を閉じ、その気持ちのいい感覚を存分に堪能する。 「鶴城さんって、そんなやわな心臓してましたっけ?」 僕が嫌味の一つでも言うと、彼はとても嬉しそうに鼻で笑う。 でも手は止めない、ずっと頭を撫でてくれている。大きくて、丁度いい温度の落ち着く感触。 「本当にそんなことになったら嫌だから、やめてよね?」 この低くて甘くて優しい声が、芯から落ち着かせてくれる。 鼻につく薬品の匂い、じっくり見なくても、ここがどこだと聞かなくてもわかる。病院だ。しかもかかりつけのいつも病院。 「鶴城さんが連れて来てくれたんですか?有難うございます。」 僕がお礼を言うと、 「ん、知らせが来てね。すぐに飛んで行ったんだ。何があったの?バス停から  だいぶと離れていたところだったし。」 鶴城さんは僕が倒れていた場所と状況を話してくれた。 僕は、バス停から離れた学校へ向かう林道で倒れていた。分かってる。 織部君にとんでもないことを暴露されて、この暑さと彼で、脳内が沸騰したんだ。 「薬は点滴でお願いしてもらったから、もう終わってるよ。」 鶴城さんの言葉通り、僕の右腕にはパッチンが貼ってあった。 僕はこれを小さいころから”パッチン”と呼んでいる。理由はわからない、多分おかあさんがそう呼んでいたんだと思う。 「ありがとうございます、鶴城さんに知らせてくれた方は?お礼を言わなきゃ  教えてもらえませんか?あ、まだいますか?」 僕はが尋ねると、鶴城さんは顎を掻きながらちょっと誤魔化そうとしている。 「あぁ・・・いやぁ・・・もう、いない。それにわたしがちゃんとお礼は  言ったし、大丈夫。」 ――なんだ?妙に違和感があります。間違いなくなんか隠してます。 何時もの僕なら細部まで聞きまくるが、今はその元気がない。 「そうですか・・・ありがとうございます。」 今日はこのまま学校を休むことになった。鶴城さんもう連絡してくれていたらしく、問題はないらしい。 というか、僕、このまま登校拒否したい。明日が休みで良かったと思ってる。 「―――本当に何があったの?」 鶴城さんは僕の顔を覗き込みながら聞いてきた。 この人にあの話をしたら、多分面倒な事にはなるんだろうなと思ってる。 けれど、心にこんな重りを抱えたままいられる自信もない。 話そうかどしようか迷っていると、ノックが聞こえて、先生が顔を出した。 もう今日は 帰っていいということになったから、僕たちは家に帰ることにした。 丁度いい、考える時間ができたことは有難いことだ。
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