第1話 出会い

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 その日の午前の授業が漸く終わり、昼休みの時間になる。  ふと外を見るといつの間にか空は曇っていて、陽射しがないようだった。  しかし、雨は降っていない。 (……そうだ。良い天気だし、屋上で食べよう)  折角の快適な空。  自分も人間たちのように、気持ち良く高い場所で食事がしてみたい。  購買部で気になるパンを購入し、階段を鼻歌交じりで上がっていく。  ドアを開ければ、初めて足で立つ学校の屋上。  やはりそこには陽の光などなく、心地良い涼しい風だけが自分の頬を撫でていくだけ。  どうやらまだ他の生徒は来ていないようだった。  さあ一番眺めのいい場所はどこだろうと、ドアを閉め歩き出したリーフェルトだったが―― 「……?」  何かが背中に当たった感覚に、リーフェルトはすぐに足を止める。  何やら重いものが落ちたような音が耳に入った気がして振り返れば、そこには一冊の書物。  それはなかなか分厚く、表紙を見る限りなかなか古い書物のようだった。 「わ、悪い! 大丈夫か――」  後ろから焦ったような、男子の声。書物を落とした本人だろうか。  厚い書物を自分にぶつけてしまったことを謝っているのか。  そんな考えが過ぎるも。すぐにそんなことは、リーフェルトにとってどうでも良くなった。  彼は今、それどころではなかった。  リーフェルトはなにやら喉にこみあげてくる違和感に、咄嗟に、口許を手で覆う。 「げほ……っ」  一回。身体を屈し、咳き込む。  すると口から何か液体が飛び出し、自分の手やコンクリートを嫌な音と共に濡らした。  そしてその液体が何なのかその目で確認し――リーフェルトは自身の目を疑う。  紛れもない、血液。  嗚呼。血を吐いたのだ。今、自分は。 「……お前。人間じゃないのか」  自分の手を見下ろし愕然としているリーフェルトの背に、落ちてくる冷静な男子の声。  リーフェルトは、驚いてその声の主を振り返る。  その時、リーフェルトは気づいていなかった。  魔力を使うときと同じように、自分がその瞳に青い光を宿していたことを。  そして――塔屋に座り、人ではない者を見下ろす少年の瞳と、リーフェルトの双眸が、まっすぐかち合った。  陽射しのない。快適で素晴らしい、曇り空の下だった。
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