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通りを歩いていると異変を感じた。
いつもと違って今日は何だか人通りが多い。
何かあったのだろうか。
不思議に思いながら歩いていると、物々しい雰囲気が満ちていて、警察官が通行止めを伝えて来た。
これ以上先に進めないらしい。
周囲にいる人たちの不安そうな様子に影響されたのだろう。
そこで私は身震いした。
不安を鎮めるために自分の体を抱いたけど、手も冷たい。
誰かに見られているわけでもないし、何か危険な目にあっているわけでもない。
物理的に寒い環境にいるわけでも、冷たい物を押し付けられているわけでもない。
なのに、体がひんやりしている。
一体どうしたものだろう。
私は疑問に思いながら、その事を他の人に尋ねるけれど、周りの皆は無視した。
冷たい態度に、私は憤慨する。
頭が沸騰しそうなくらい怒っているのに、でも血がのぼるような感覚はなかった。
そもそも、最初から感覚が存在していなかったのだ。
私はショーウィンドウを見て、「ああ」と納得の声をあげた。
自分の真後ろの光景までよく見える。
通行できない通りの向こう、人だかりと警官の先に、ひしゃげた大型のバスがひっくり返っている。
体をずらすことなく見えたその光景は、私がもうこの世に存在していない事の証明だった。
「そうだ。死んでたっけ」
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