それが僕の名前

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それが僕の名前

ひとごみ この単語を聞いて、君の無限の妄想力では、何がイメージできたかな? 夏祭り? いいね。何百何千という人間がべらぼうに高いたこ焼きや綿菓子などを買うために、右往左往して縦横無尽に蠢く情景が簡単にイメージできる。その一つ一つが個々の意思を持って動いているのかと思うと、吐き気がするよ。 満員電車? それもいい。通勤通学ラッシュの時間帯は、それはもうすごいよね。なんせ、車輌という狭い箱の中に四十度近い体温を持った人間が、何十と密集するんだから。 他には? 休日のショッピングモールや観光名所、遊園地……まだまだたくさんある。 でも、多分、誰も、僕のことを思い浮かべる人はいない。約四十人の僕のクラスメイトを除いてね。 ヒトゴミ。これが、僕の名前らしい。名付け親は、イジメ主犯格の◯崎。彼曰く、由来は人の形をしたゴミだから、だそうだ。 きっかけは大したことない。僕の前にイジメられていた子を僕かばった。そして標的が僕になったのだ。 「ゴミはゴミらしく」 そんな何かの標語みたいなことを言いながら、僕の机には毎日、生ゴミがぶちまけられ続けた。 でも、仕方がない。自分で蒔いた種なのだ。あの時逆らえばどうなるか想像できなかったほど、僕はバカではない。 案の定、イメージ通りになった。ここまでやられるなんて、さすがに思ってなかったけど。 近頃は学校に行かなくなった僕は今、暗い部屋で包丁を研いでいる。なんのためかって? ふふふ、そんなの決まってる。 深夜。家族に見つからないよう鞄だけ持って細心の注意を払って家を出る。しばらくぶりの通学路を歩く。やがて学校に着く。それから教室へ。 三年一組の表札がかかっていない方のドアの鍵は、壊れていて施錠ができない。だから、こうして入ることができる。 僕の机を見ると、花瓶と何本かの花がそこに刺さっていた。 はっ、もう死んだ扱いか。まぁ、別にいい。どうせこれから起きることなんだ。少しのフライングくらい、許容の範囲内だ。 持ってきていた鞄を開ける。中にはさっきの包丁がある。切っ先を指ですっとなぞる。皮膚を切り裂き、少し遅れて赤い液体が滴る。完璧だ。
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