第16話

45/47
前へ
/188ページ
次へ
「名前?」 そう言って、忍が二つの研究施設の資料を画面へと呼び出す。 一つは、日本の筑波に存在する<高エネルギー加速器研究機構KEK>と呼ばれる施設で、ここにあるのは【トリスタン】という量子加速装置。 もう一つは<欧州原子核研究機構CERN>で【イゾルデ】という重イオン実験施設がある。 「ここで、もう一度、花木田南緒人の謎の文章をよく見て欲しいんだ。この三番目‥‥やがて、女神は赤い地に聖なる白い十字を見上げ、人と馬が佇む大地へと佇み、マーガレットやヒナゲシ咲き誇る狭間に居座るかの如く住処を決めた‥‥これは恐らく、この研究所の場所を指し示すと共に、間違いなく“イゾルデ”である事を確信させている。」 赤い地とは戦場の血の色、白い十字とは“赤地の盾に聖なる白い十字を表す”スイス国旗の事だ。 また、人と馬が佇む大地とはギリシャ神話に出て来る半人半馬の怪物ケンタウルスの事であり“Centaures”を属名として持つ植物、矢車菊を指し示している。 ここから見えてくるものは、矢車菊の青、マーガレットの白、ヒナゲシの赤、三つの花で象徴されているフランス国旗だ。 この“イゾルデ”と呼ばれる研究施設は、事実、スイスのジュネーブ郊外とフランスの国境地帯にある世界最大規模の素粒子物理学の研究所だ。 《そして‥‥恋しい人を遥かなるこの陽の下に思うようになった。》 これは、この陽の下=日の本‥‥つまり、日本国旗の下にある筑波の施設“トリスタン”の事を指し示しているという事だ。 「ただ、僕にもわからないのは、この先の文章なんだ。一体、何を指し示したくて、これらの言葉を続けているのか‥‥。」 「忍、それだけ分かれば充分だ。」 「えっ?晃さんには、全て分かったの?」 「ああ‥‥。お前の言う通り、女神の名は“イゾルデ”恋人の名は“トリスタン”。そして、頭上の騎士というのは間違いなく”オリオン”の事だろう。だとしたら、この謎は全て解ける。」 そう言うと、晃は南緒人の怪文書を横目に、それを翻訳するかのように語り出した。 ≪そう、彼女は女神と呼ばれた。今も昔も。 そして、頭上には巨大な騎士が存在する。今も昔も‥‥‥。》 「これは、イゾルデとオリオンについての話だ。」 《やがて、女神は赤い地に聖なる白い十字を見上げ、人と馬が佇む大地へと佇み、マーガレットやヒナゲシ咲き誇る狭間に居座るかの如く住処を決めた。なぜなら、恋しい人を遥かなるこの陽の下に思うようになったからだ。一方、頭上の騎士は、二つの僕を従えながらも決して付かず離れず‥‥。一層大きな永遠を形作ろうとしていた。》
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加