第14話

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“コトン‥‥” テーブルの上へと何気に置かれたコーヒーカップ。 部屋中に漂い始めたその香りに、否応なく意識が引き戻されてゆく。 やがて開けた視界が、見慣れた部屋の様子を映し出している。 「どうだい?気分は‥‥‥。」 傍らで投げかけられた声に、晃は驚きと共に視線を向けた。 テーブルをはさんで、ソファへと座り込んでいる男。 そう、自分を訪ねて来た、あの男だ。 「勝手に入れさせてもらったよ、悪いね。」 「それは、テーブルの上のコーヒーの事か?それとも勝手に部屋へ入り込んだ事か?」 ソファへと置き上がった身体の状態を確かめるかのように、晃は男に掴まれた手首をさすっている。 「気を失ってから30分‥‥という所かな。身体の方は、かなり楽になったんじゃないかと思うんだが‥‥。あの状態のままでは、最低3日間は、ここから身動き出来なかったはず‥‥。まさに、生気を削がれるほど疲労感の塊となっていたからな。」 言葉の先で、テーブルの上に残されている薬剤アンプルを目に、自らの右腕に残された小さな注射針の痕跡が晃の視線をいやが上にも引き込んでいた。 「俺を強引に眠らせてまで、一体何を投与したんだ?‥‥森有都先生。」 ようやく交差した視線の先で、相手の口元がわずかに微笑んでいる。 「私が何者なのか、やはり気付いたか‥‥。」 そう返した男に、何一つ話を切り出す気配も見せずに、沈黙の表情でただソファへと座り込んでいる晃。 「私はただ、君の力になろうとしただけだ。」 「力になるだって?得体の知れない薬剤を勝手に投与しておいて?」 「薬剤についての詳しい説明は出来ないが‥‥‥この世の中には、人の細胞を瞬時にして蘇えらせる未知なる物も数多く存在しているという事だ。私の話を信じるかどうかは君次第だが‥‥。」 「例えば‥‥‥?これは特定人物の血液から採取、精製したもの‥‥‥とか?」 投げかけた鋭い沈黙が、相手の視線と交差する。 「‥‥そこまで承知しているならば話は早い。実を言うと、君に直接の頼みがあってね。‥‥‥と言うより、あえて残された道は、ここしか無かったというべきなのかもしれないが‥‥。」
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