50人が本棚に入れています
本棚に追加
/188ページ
祥己は、記憶していた。
それは、瀬名生喜が肌身離さず身に着けていた、あの腕時計と同じものだ。
「確かに‥‥‥。これは確かに、瀬名生喜の腕時計だよ。」
速水に刺され重傷を負ってから、病室の貴重品ボックスへと仕舞い込まれていた。
森有都と共に消え去ると同時に、その腕時計も持ち出されたはずだが‥‥。
「どうして、晃さんが?」
「数時間前、マンションへ直接これを渡しに来た人物がいる。彼は、瀬名生喜の記憶の中に、謎を解く全ての鍵があると置いて行った。その人物とは‥‥君が探し続けている、森有都。当の本人だよ。」
赤信号でブレーキを踏み込んだ祥己の驚きは隠せない。
何か理由があって瀬名生喜と共に姿を消したと思っていた森有都。
間違いなく親友であったとしたら、一体どこまでの真実を自身の胸の内に秘めていたのだろう。
「初めて会った時から、何となく森有都の事は引っかかっていたのよ。6年前の事件を知るきっかけになったのは、彼の投げかけた一言だったし。一見繋がりの無いような人物や事件が、彼の回りで起こっていたのは事実だったから。ただ、不運にも事件に巻き込まれていただけなのだと思い込んでいた。こうして姿を消すまでは‥‥でも‥‥。」
「でも、重傷の瀬名生喜を密かに病院から連れ去った。だから君の中で、偶然が必然になったんだろう?森有都には、何かがある‥‥と。」
晃の言葉は、祥己の確信を確実なものに変えていた。
「彼は、一体何者なの? 全ての常識を覆した先に答えがあるならば、森有都がドクター嶋‥‥という事も在り得るのよね。」
冗談半分で様子を探ろうとした祥己の言葉だったが、ホントかどうかも否定せぬままに、それっきり押し黙った晃。
恐らく、彼は気付いているのだろう。
森有都が、一体何者なのかという事を‥‥。
車は、目的地の廃工場へと向かっていた。
晃と同様、祥己もそれきり無言のままに、アクセルを踏み込んでいたのである。
最初のコメントを投稿しよう!