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「ねぇ、あなたが確かめたい事って、一体何なの?」
氷山真澄と同化した田中僚に、エレベーターの中で話かける。
瑠依の傍らで、田中僚は足早に佐山病院の最上階へと足を進めている。
姿を現した病院を後にすると、まるで時間に追われるかのように、この佐山病院へと乗り込んでいたのだ。
「さっき、あなた受付で聞いていたわよね。確か曽根山院長の病室を教えてくれって‥‥。彼は、銃で撃たれて未だに意識不明の状態で、面会も謝絶状態なのよ。一体、何を調べようっていうの?」
病室の入り口へと辿りついた足が、やがて止まる。
面会謝絶の掲げられた入り口ドアの前で、田中僚は周囲に人が居ない事を確認すると、躊躇する事無く病室の中へと入っていった。
「ちょっと‥‥。」
慌てて、瑠依もその後に続く。
いくつものチューブが取り付けられた身体が、ベッドに横たわっている。
まるで心拍数を刻む計器だけが、曽根山の生存を確かなものにしているかのようだ。
近づいた田中は、意識のない曽根山の左腕を掴むとその身体を横にした。
何かを隈なく探すかのように、背中を食い入るように見つめる。
「やはり、違う‥‥間違いなく、曽根山本人だな‥‥。」
「えっ?」
「傷がない。」
「傷?」
「ああ‥‥背中、左上腕部に、傷痕があるかどうかを確かめたかったんだ。」
田中僚の呟きが、瑠依の視線を引き寄せた。
「言ってる意味が分からないわ。」
「君は、あの時、確かに知らされたはずだ。全てのコトの始まりとなった物語を‥‥。そして、あの物語には続きがある。当時、天才科学者と呼ばれたドクター嶋は、反旗を掲げた若き研究者と、足止めを画策したコーディネーター、二人の企みの前に姿を消した。極秘に抹殺されたとのウワサもあるが、真実は闇の中だ。だが、その瞬間から新たなドクター嶋の名が闇世界へと轟いたのも事実。つまり、彼らはすでに地位を築き上げていた天才科学者ドクター嶋の権力さえも全て乗っ取ったという訳だ。」
「この事件の背後に、新たなドクター嶋の存在があるっていう事?」
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