アタシは弟が嫌い、でも弟は……

1/1
前へ
/1ページ
次へ

アタシは弟が嫌い、でも弟は……

アタシが生まれた瞬間、 最初に見た両親の顔は笑顔じゃなかった。 小さい頃からずっと嫌われ、 目を合わせたらこう罵られた―― 化け物、ってね。 両親と肌の色が違うからって、 アタシの肌が色黒…… それだけの理由でアタシは 「化け物」と見なされてしまった。 1人の時はまだ良かったよ…… 罵られはしたんだけど、 ご飯はちゃんと用意してくれるし 迎えにも来てくれていた。 アタシ自身も仕方ないと受け入れて 部屋へ逃げればいいだけだし。 だけど4年後…… 「翼」という弟が出来た時、 両親は笑顔だった。 アタシに見せてくれなかった 明るすぎる笑顔だったんだ。 まるでアタシなんて 最初からいなかったかのような そんな笑顔を ドア越しから見てしまった。 そっからだった、 特別に好きじゃなかった3人が 「嫌い」になったのは―― 特徴をしっかり受け継いだ弟は 両親から可愛がられる。 それを扉の隙間から見えるたびに 胸が強く締め付けられ、焦げていく。 なんで、あいつが…… たかが肌の色が 両親と同じだからって……! アタシは嫉妬した。 だけどそれ以上にむかつくことがある。 何であいつだけは アタシを嫌わないんだよ……! 両親みたいに化け物っていいなよ! 両親が見向きしないのが 可哀想だからって 代わりに自分が見てあげなきゃってか? ふざけんなよ。 同情のつもりかよ。 「お姉ちゃん、ご飯食べないの?」 「…………いらない。  翼は親父たちと一緒に食べてなよ」 「う、うん……」 ……翼には分からない。 化け物呼ばわりされるアタシと違って 2人から愛されているあいつには…… アタシがどれほど傷ついて、 どれほど親父たちからの愛に 飢えてるのか…… 絶対に分からない。 いや……そんな簡単に 理解されてたまるか。 アタシの中で意地が凝り固まる。 アタシは頑なに心を閉ざし、 ただ1人…… 赤本が置かれた机を見つめた。 そうだ、こんなところ…… さっさと出ていけばいい。 伊達に高校まで我慢したわけじゃない。 都内の大学に行けば 寮に移って独り暮らしが出来る。 幸い志望大学の合格ラインには 手が届いている場所にいる。 ここまで…… ここまで来れば、アタシは……! 必死に努力した。 アタシの願いが通じたのか、 受験は見事に合格。 晴れて上京ができるってことだ。 部活仲間は皆して祝福してくれた。 さすが苦楽を共にした仲間は アタシの異様な恰好を気にせず 内面を見てくれている。 あいつらとは大違いだ…… 尤も、そんな奴らとは ここでもうお別れだけど。 出発日の夜明け前…… アタシは荷物を持って 玄関で靴を履き替えていた。 服や家具は一昨日に 引っ越し屋に運んでもらったし、 そのことに両親が 口を出すこともなかった。 子供の巣立ちなのに 妙に冷静な様子である2人に対し、 アタシは軽蔑の目を向けた。 何とも思えないってか…… まぁそうしてもらった方が アタシも助かるけどね。 見送られるのも癪だし、 親父たちが寝ている今のうちに…… そうして立ち上がった瞬間だった。 「お姉ちゃん、どこに行くの?」 …………は? 翼……何で起きてきたの? そんな眠そうに目を擦ってまで、 わざわざお見送りかよ。 「……東京、そこの大学に行くことにした」 「そんな急に……お父さんたちには  言うべきなんじゃない?  仕送りくらいはしてくれるはずだから……」 ……馬鹿じゃないの? あの2人が化け物に対して 塩を送るような真似でもする? 仮にそうだとしても、 アタシは受け取る気なんてないから。 「いらない、自分の服は寮に送ったし、  金銭面もバイトで何とかする」 「お姉ちゃん……」 「じゃあね、翼……アンタはアンタで頑張りなよ」 「待ってよお姉ちゃん!お姉ちゃん……!」 アタシは背中を見せることなく、 あの居心地の悪い家を出た。 久しぶりの解放感…… だけど弟の悲痛な叫びが 時折背中を刺してくる。 翼……あいつは最後まで、 アタシのことを心配していた。 この世で一番嫌いな両親、 そんな両親に愛されている弟は もっと嫌い………… なのに弟は、最後まで 嫌わせてくれなかった。 アタシのことを変に気遣い、 傍にいようとしていた。 弟にとってアタシは 肌の色が違う化け物じゃなくて、 何の変哲もない「姉」だった…… そういうことなのかよ…… 「ふざけんなよ……」 ……言ったでしょ? アタシのことを構うから、 こうなるんだよ。 あの腐った両親みたいに、 堂々と嫌ってくれれば良かったんだ。 じゃなかったら、 アタシもあんたも………… こんな寂しい気持ちに ならないで済んだのにさ……
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加