04.call me names

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GWの終わり頃、僕は初めて先輩の家に遊びに行った。 先輩の進路先は、メーキャップ・アーティストになる為の専門学校だった。 だから、先輩の部屋にはたくさんのコスメがあった。 夜の仕事もしている僕のママよりもたくさんのコスメ。 「まおちゃん、メイクさせて」 僕は椅子に腰かけながら、先輩の愛撫の様なメイクを受けた。 凄くくすぐったくもあり、ピリピリした感覚もあり、期待と不安で一杯だった。 しばらくすると、先輩が手鏡に僕を映してくれた。 「嘘? これが僕?」 「俺は、絶対化粧映えすると想っていたよ」 満足げな先輩の顔と、鏡に映った別人のような自分の顔を見比べた。 「まおちゃん、キスさせて」 先輩は僕の返事も聞かずに、唇を奪った。 ファーストキスだったけど、口紅が先輩につくんじゃないかと気になって仕方なかった。 先輩の唾液と、溶けた口紅の香料が交ざり合い、喉に滲入するが不快ではない。 人に必要とされている気がしたから。 僕はそのままベッドに押し倒され、2人は夢中で服を脱いだ。 数分後、先輩は僕の中に入って来た。 「あれ? まおちゃん、はじめてじゃないんだっけ?」 そう問いかけながら、腰の動きは止まらず、荒い息遣いに変わっていった。 終わった後、改めて先輩が訊いてきた。 「今まで彼氏いなかったって言ってたよね?」 「……うん。いなかったよ。キスだって今日が初めて」 「でもさ……」 「……うん。でも、バージンじゃない」 セカンド・バージンではあったけど。 僕は、先輩の匂いがする布団を胸元までかけながら、3年前までの父親との事を告白した。 怖くて、先輩の顔は見られなかった。 話し終わって、先輩はギュッと抱きしめてくれた。 ……なんてことはなかった。 枕にしていた腕は、僕を抱き寄せることなく、首の下からスルリと抜けた。 僕の中でも『何か』が抜け落ちてしまった様な気がする。 こんな時、カズキなら、抱きしめてくれるだろう。 いつも無条件に無償の愛を捧げ、抱きしめてくれる。 無償の愛なんて、本当は親の役目だったのに。 他の男に抱かれた後に、カズキを想う。 ごめんなさい。また自己嫌悪。 僕は、初カレと付き合った初日に終わりを迎えた。 call me namesーー。 こうして僕はGWの後、帰宅部になってしまったんだ。
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