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遅かれ早かれ、雛鳥は巣立ちの時を迎えるのだ。
人間だけが異様に遅い。それだけの話。
その気になれば、どうにかなる人生。
するか、しないか。それだけの話。
僕はママとは違う。それだけの話。
ボロアパートの前に立った。
周りは割と小綺麗な新築アパートが増えている。
このアパートだけが取り残された『害悪』の様にも見える。
ここに住んでいるというだけでイジメを受けた。
嫌な想い出ごと、全て置き去りにして、引っ越しすべきだ。
あんな父親のせいで、同情されることなく、犯罪者の娘として扱われた。
弁護士とか、しっかりした大人に相談して縁を切ることができるはずだ。
ママは、母である前に、女であることを選んだ。
だから、僕は男になりたかった。
女であることを否定したかった。
女でなかったら、あんなことをあいつにされることもなかった。
でも、カズキに出逢い、男になる必要はないと知った。
ありのままの自分を受け入れてくれる人が将来現れるかも知れない。
僕っ娘のままかもしれないけど。
部屋の前まで辿り着いた。
網戸だけのキッチンの小窓からは、うっすらと嫌悪するアノ声が漏れている。
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