05.call my name

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call my nameーー。 誰かが僕の名前を呼んだ。 え?現実に?こんな夜中に? 「高田! 今日はシカトすんなよ!」 同中(おなちゅう)の谷川だ。 イジメには加担せず、(むし)ろ最初の頃は(かば)ってくれた男子だ。 「良かった。この間、無視されたからさ。 ……ずっと、後悔してたんだ。高田のこと、守ってやれなくてごめん。 俺、怖かったんだよ。お前を庇って、的にされることが。 最低だよな。本当は、お前のことが好きだったのに」 どうやら谷川は、つい最近、僕がカズキの時に声を掛けたらしい。 「でも、今日は逢えて良かった。 俺、明日、引っ越すからさ。どうしても直接謝りたかったんだ。 高校辞めてでも、やりたいことがあってさ。親に勘当されたけど。 って、高田、こんな夜中に荷物背負ってどうしたんだよ?」 「アハハ、谷川ってこんなキャラだったの?」 僕はおかしくてしょうがなかった。 生まれ変わって、見える景色が変わったのかも知れない。 「高田も、普通に笑えるんだな。 本当は美人なんだから、笑ってた方が良いぞ」 「谷川って、僕のこと好きだったの?」 「違うよ。好きだったんじゃなく、今も好きなの」 「過去形じゃなく?」 「現在進行形で」 「僕、情緒不安定だよ?」 「知ってるよ。メンヘラの僕っ()だろ」 「うーんと困らせて良いなら、そばに居てあげるよ」 「だから俺、明日引越しなんだって」 「だから、着いていくの!」 僕は、パンパンに膨らんだリュックを指差した。 「僕も親と縁を切ってきたんだ」 「そういえば、今日出所して来たって、誰かが言ってたな」 「谷川は……僕にこんな過去があると知ったらどうする? 軽蔑する? 嫌いになる?」 僕は、三日月を見上げた。 谷川に抱きしめられながら。 彼の答えはこうだった。 「そんなの、何も言えないよ。 これが答えじゃダメかな? 高田マオ」 谷川は僕を力強く抱きしめてくれた、僕の為に涙を流しながら。 谷川は僕を力強く抱きしめてくれた、僕の名前を呼びながら。 call my nameーー。 君の祈りは、月に届きそうだよ、カズキーー。 8cade334-0558-4a5d-80b5-71adaee888a9
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