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「マスター、私はあなたが嫌いです」
何の悪意もない声が突き刺さった。もはや聞きなれてしまったその言葉に、僕は苦笑を零した。
「レイナ、さすがにそう何度も言われると僕も傷つくのだけど……」
「私の知ったことじゃありません」
「厳しいなぁ……」
牡丹色の冷酷な瞳がバッサリと切り捨てた。優しさの欠片もない言葉に、さすがの僕も両肩を落とす。
「一体、僕のどこが嫌いなの?」
「全部です」
「うっ……僕、何かしたっけ?」
「身に覚えがないのなら尚更嫌いです、最悪です」
胃を何度も刃物で突き刺されているみたいだ。まっすぐこちらを見つめたまま嫌いだと吐き捨てる彼女に、僕は苦い顔をするしかなかった。
レイナは、僕が開発したアンドロイドだ。至上初めての、心を持つヒューマノイド017型。
通称、017。
レイナが生活に慣れてきた頃、随分と安直な名前だと彼女に言われたのを覚えている。
彼女は、昔から僕に嫌いだと言っていたわけではない。ある日突然、面と向かって嫌いだと述べるようになったのだ。
確かに彼女には、『心』という誰にも理解し難い複雑なプログラムを与えてはいるが、ここまで人を嫌うような設計にはしていないはず。もっとも、心というのはこの世の誰もが完璧に理解できるわけではないため、こうした予測不可能なことを起こしても納得はいくのだが。
「うーん……どうしたもんかな」
「本当に心当たりがないのですか?」
「お恥ずかしながら……」
へらりを笑いながら頭を掻けば、レイナはサラサラの茶髪を指先で弄って溜息を吐く。あぁ、これは完全に愛想をつかされている……!仮にも僕は彼女を作り出したマスターなのに、彼女のことを微塵も分かってやれていないなんて何とも情けない。
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