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「あの…、祖母ちゃんは先月亡くなったんだ」
「そうかと思ってはいた。優しい人だったな」
男は沈んだ顔で呟く。
「うん」
男が祖母の死を悼んでいるのを感じたが、本題に入らないと。
「えーと、それで、この家は俺が住むことになったんだ」
「本当に? 敏明がここに住むのか?」
男はぱっと表情を明るくした。
一人が寂しかったんだろう。でも俺は得体の知れない男と暮らすのは嫌だ。
「ああ。だから悪いけど」
出て行って欲しいと言いかけてためらった。どんな事情か知らないが祖母と暮らしていたようだし、頭の具合も心配な男を追い出していいものか迷ったのだ。でも居つかれても困る。
「悪いけど?」
「あー、どこか行くあては?」
「え?」
「だから親戚とか…、ていうか家は?」
「ここだ」
…やっぱり病院かな。身元がわからないなら警察? それよりもこんな親戚がいたか母に訊くのが先か。一瞬のうちにそんな考えが頭を巡る。
「もしかして覚えてないのか?」
男は悲しげに俺を見る。
子供みたいに感情がわかりやすい。そんな顔をされると申し訳ない気分だ。
「ここでかくれんぼしただろう?」
「それは覚えてる」
「敏明がかくれんぼの途中でいなくなったから、どうしたのかと心配していた」
「えーと、それはいつ頃の話?」
「敏明が十歳の夏だ」
「…ああ」
夏休み中に母が交通事故にあったと連絡がきて、急に自宅に帰ったのだ。幸い骨折だけで後遺症も残らなかったが、看病が必要でここには戻れなかった。
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