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「懐かしいな」
久しぶりに訪れた祖母の家は記憶にあるより古びていた。
古い引き戸の玄関に鍵を差し込んで回転させた。木の格子が入った引き戸を開けると土間がある。
土間に入った俺をむわっとした空気が包む。まだ六月なのに閉めきりだった家の中は澱んだ空気がたまっていた。
縁側の雨戸を開けて回り、空気を入れ替えていく。
祖母が入院して以来、半年近く人の出入りがなかったせいで廊下は薄っすら埃が積もっている。
父が早くに亡くなって母に育てられた俺は、学校の長期休みにはここへ遊びに来ていた。
最後に泊りに来たのは小四の夏休みだ。中学に上がったら部活が忙しくて泊りに来なくなり、足が遠のいていた。
三年前から入退院を繰り返す祖母と会うのは病室になって、だから十年近くこの家に来ていないことになる。
そういえば、よくかくれんぼをした。納戸や箪笥の影に隠れてドキドキしながら見つかるのを待った。誰としたんだっけ? この家に子供はいなかったはず。
でも確かに誰かと遊んだ記憶がある。優しそうな少年の面影が浮かんだ。毎年その子に会うのが楽しみで…、誰だった?
小学生の記憶は曖昧だ。
近所の子かな、浴衣姿だった。
そんなことを思い出しながら納戸に行ったら、目の前に男が立っていた。
「わああっ」
驚いて声を上げた。無人のはずなのに。
ていうか着物姿ってなんだよ。
え、幽霊?
いやちゃんと足がある。
「何だお前、どっから入った?」
思わず掃除機を構えると、彼ははっとしたように目を見開いた。
「敏明? 敏明なのか?」
そう叫んでぱっと顔を輝かせ、俺の肩をつかんだ。
不意打ちされて俺は押し倒された格好になる。床に尻もちをついて男を見上げた。びっくりするくらい整った顔立ちをしている。
「え、誰? 俺を知ってんの?」
「忘れちゃったのか? 座敷わらしだ」
男はそう名乗り、俺は目を瞬いた。
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