花を踏んでは、

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「僕、蒲団の中で安らかに死ぬのだけは、真っ平ごめんです。……できるなら……先生を守って、死にたい……」  あれは、念願の武士になれた日だったな。  まぁ、粗暴浪人の集まりがやっと新撰組として認められて、会津中将の“お預かり”という仮の身分と、京市中の警護という任務が付いただけだが。  しかし、一応裕福だったが身分もへったくれもねぇ農家の末子に生まれた俺が、ガキの頃から歯ぁ食い縛って切望したものを手にした時だ。  元から武士の子だが、家族同然に付き合ってきた……手のかかる弟のみてぇな存在の、総司に訊いてみた。 「なぁ、総司……お前、どんな風に死にたい?」 「……え? ……な、なぁに言ってんですかぁ土方さん! もぉー、やめてくださいよ、縁起でもないぃ」 「馬ッ鹿……。武士として、どんだけ立派に生きたかってのは、死に様で決まるんだ。武士が生きるっつうことは、誇りある死に場所を探すことだぜ。そう思わねぇか」  癖で睨みつけると総司はふと笑って少し考える風を作ったが、その答は当に決まってたように見えたな。  先生の為に、生きたい。  あいつは、かっちゃん……俺達、新撰組の局長・近藤勇を、ずっと“先生”と呼んでいたんだ。  “近藤先生”とか、名前を付けないのには理由があるんだぜ。  本人は意識してねぇだろうが、この呼び方は、近藤勇以外の人間を決して“先生”と呼ばねぇ事を表しているんだ。  俺は今でも、あいつの事をよく思い出す。  俺達が京に上る前、まだ俺がただのバラガキだった頃の事まで、未だに覚えているんだ。
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