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マンションの部屋を後にした翔はスマホで誰かに発信をかけながら歩いていた。
「源さん?今から迎えに来て欲しいんだけど・・・え?本当に?流石源さんエスパーだよね!愛してる」
エレベーターのボタンを押すと、待ち構えていたかのようにすぐに下りのエレベーターが扉を開ける。翔はご機嫌な足取りでエレベーターに入るとB1と刻まれたスイッチを光らせる。エレベーターが再び扉を開けると、駐車場が広がっており、綺麗に引かれた白線に習って高級車が何台も止められている。翔は無機質な白い蛍光灯で照らされた灰色の世界を迷い無く真っ直ぐに歩き進める。艶めかしく光る様々な高級車、排気のこもる生暖かい空気や不意に響くタイヤのゴムが擦れる音と工事現場を思わせる衝撃音。その全てに一切の気も示す事無く彼は真っ直ぐに停車している1台のタクシーへ歩み寄った。タクシーは彼に気が付くと自ら扉を開き彼の乗車を歓迎し、彼が乗り込むのを確認して運転手が扉を閉じる。運転手は運転席へ戻るとミラー越しに翔を見て一言口を開いた。
「ご自宅でしょうか」
すると翔は弧を描いた口元にそっと人差し指を添える。一見静寂を求めている様にも伺えるが、よく見るともう一本シルバーのリングが通された中指も上げられている。シルバーのリングがきらりと光ると翔の右目が閉じられ長く柔らかなまつ毛が現れる。一体その仕草で何人の人を惑わせてきたのだろうか・・・運転手は慣れた様子で頭を下げると車を走らせた。
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