ルダス

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ルダス

深夜――。 時計の針が一斉に零へと、シンデレラはお家へと帰る頃。温かいお布団の中で瞳を閉じて静かな闇をくぐり抜けて幸せな夢の世界へ移るお時間。だけど、 カチャリ。 今日も時計は刻み始める。温かいお布団を抜け出して、あちらの世界に行けなかった子達の為に。 そう、ここからは大人の時間――。 やけに年季の入った二階建てのアパート。その一室のドアが無造作に開かれた。出てきた男は痩せ型で、質の良いスーツを見に纏い、値が張りそうな装飾と目に飛び込んでくる様な金髪が、真っ暗な筈の戸口にパッと明かりが灯ったかと見間違う程に輝いている。 男は1歩外へ踏み出すと共に身をすくませて中へと引き返し、1枚上に羽織った姿で現れた。 慣れた様子で扉に鍵をかけると、両手を上着のポケットに突っ込みアパートの隅に備え付けられた錆が見える階段を足早に降り始める。 「あ〜、くそ・・・(さみ)い」 肩を震わせながらアパートの傍に止められているタクシーへ飛び乗るとすぐさまタクシーは目的地へと走り始める。 丁度いい具合いに温められた車内に満足したのか、男はポケットから両手を出すとスーツからシルバーカラーの辛そうなミントを取り出し、軽やかな音を数回鳴らして口へ運ぶ。 すると同時に男の携帯から着信音が鳴り始める。気だるそうな様子で緑色のボタンを選ぶ。 「はい。今家ですけど・・・無理ですよ。ああ、なるほど。じゃあ5分なら何とかしますんでそれまで繋げといて下さい。」 まだ聞こえている電話の向こうの声を無理やり断ち消すと、男は運転席上部のバックミラーをチラリと見て窓の外へと意識を飛ばした。 車窓から見える光の粒はスピードを増しながら流れ去って行った。
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