ルダス

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派手な装飾と多彩な照明で目が眩むほどの店内には高価そうなソファーとテーブルがあちらこちらに並べられ、客同士の顔が目に入らぬようそれぞれを低めの磨りガラスで仕切り分けられている。 しかし賑わうはずの店内には客らしき影は見当たらない。 「もういいわ、こんな子供達いくら集めた所で五月蝿いだけよ。帰るわ!」 正面入口から1番遠い位置にあるテーブル。そこには一際高価そうな品が使われ、テーブルの正面には少し床を上げられたスペースが設けられている。どうやらその席で甲高い金切り声を上げている彼女が騒動の元凶のようである。 派手な高級ブランドと厚めの化粧で固め抜かれた女性は40手前といったところか、しっかりとセットされた髪に、傷一つ無いネイル。朝からこの夜の為にサロンを周って来たことが伺える。彼女は大層ご立腹な様子で小さなクランチバッグを手に取ると両側に掛ける派手な優男達を払うようにして席を立った。それを見て正面の舞台で芸を披露していた数人の若男達もまごつく始末。誰がどう見てもこの場の空気は限界を迎えていた。女性は怒りを通り越してもううんざりといった態度で真っ赤な絨毯から黒い大理石の床へカツカツと高いヒールを鳴らしながら歩き出した。彼女は、真っ青な顔で必死に気を引こうと鳴きかけられる猫なで声に、大胆に開かれた胸元にかかる柔らかくカールした栗色の髪を後ろへサッと払いのけた。甘く(かぐわ)しい香りに包まれて子猫達はもう駄目だと頭を垂らすと、奥手からコツコツと重たい靴音が聞こえてくる。すると、嘘のように高いヒールはぴたりと音をたてなくなった。 広い店内にゆっくり近づいてくる靴音だけが響きわたる。 「あら、今更何のようなの?翔。私、今帰る所なのよ?」
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