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紅く彩られた口元から優雅に紡がれた言葉は子供をあやすかのような優しい響きでいて、また翔を試すかのような遊戯さを感じさせる。
それを聞いた翔は間髪を入れずに伺い立てる。
「お久しぶりです麗子さん。今夜は隼人とお待ち合わせですか?」
優雅に微笑む麗子の顔に影が差し込む。
「当たり前の事を聞かないで。私、翔のそういう所嫌いよ」
ゆっくりと視線を下へ流して、席と通路を隔てる磨りガラスの美しく整えられた縁を優しく指で撫でながら麗子は呟いた。
「俺は麗子さんのそういう所、好きですけどね」
至近距離からすぐさま返された言葉の意外な内容に麗子の指は一瞬動きを止めた。翔はその手をそっと掴まえると指に口付けをして店の奥へと麗子を誘った。
「何よ、オープン前に押し入った迷惑なおばさんだと思っているんでしょ?」
壁にかけられた暗い紫色の幕を寄せると奥に通路が現れ、更に奥へ奥へと誘われる。何枚か扉を見送ると翔は1枚の暗い色の扉の前で足を止め振り返り優しく微笑みを浮かべる。
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