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「いいえ。初めて出会った記念日を隼人と祝う時が待ちきれなくて扉を押してしまったんでしょう?」
麗子は途端に顔を真っ赤に染まらせて翔と繋がる手を振り払った。
「ちっ、違うわ!そんな生娘みたいな事私がする筈ないでしょう!」
精一杯の強がりで睨みつける麗子だが、真っ赤な肌と固く結ばれた口元、今に頬が膨らみだしそうなその姿はまるで少女のようである。
しかしそんな麗子に突き付けた翔の言葉は、浮かべた爽やかな笑とは対象的な痛烈な一撃であった。
「それなら良かった、今夜はトップ5が揃ってお休みなんです。」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
麗子の叫び声は通路を反響し、店中に響き渡った。
「どういう事よ!!今日は大事な記念日でしょ!?ふざけてないで早く隼人をここへ呼びなさいよ!!隠れてるんでしょ!分かってるんだから!!!!」
隼人の不在という言葉に激しいショックで怒り狂った麗子はなおいっそう熱を帯びた肌に鬼の形相を浮かべ、今にも掴みかかりそうな勢いで迫りかかるが、反して翔は至って冷静な様子で淡々と続ける。
「残念ですが、今夜隼人は来ません。ですが」
翔は扉のノブに手をかけると、扉をいっぱいに押し開いた。途端に薄暗い通路は室内の電光でぱっと明らんだ。驚いて目を丸くする麗子に翔は優しく微笑みかける。
「俺と初めて出会った記念日をお祝いして頂けませんか?」
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