ルダス

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驚きと感動の光景に、両手で口元を抑え息を呑む麗子に翔は胸元から使い古した手帳を取り出すと四角い格子で日付が区切られたカレンダーのページを開いて渡した。そこには何年も昔の今日この日、麗子の名前が刻まれていた。 「俺と初めて出会った日、麗子さん忘れてたでしょ」 麗子が見つめる手帳にまるでヤキモチでも焼いているかのように、ひょいと手帳を取り上げると片頬を膨らませた翔の顔が麗子の瞳に写る。 その顔が可笑しかったのか、ぷっ。と笑いながら麗子はごめんなさいと微笑みを返すのだった。 「では、どうぞお姫様。今夜限りの夢の国へ」 翔は執事のようにお辞儀をし、鮮かに麗子を中へお通しする。麗子は部屋中に飾り付けられた風船や紙飾りを見て周り、並べられたワインやシャンパンの数々また、オシャレな軽食などを眺め最後にホールケーキの上に乗せられた自分の名前を見つめると、うっとりとした表情を浮かべて翔の首に腕をまわした。 「トップ5は全員休みなのでしょう?ならどうして貴方はここにいらっしゃるのかしら?」 「休みですよ?俺は貴女が悲しんでいると聞いて飛んできた隼人の代わりです」 「まぁ。昔は3本の指に入っていた貴方が?隼人を私に紹介してくれたのも貴方だったわね。可笑しな人、貴方なら簡単に1になれ」 重なる唇が言葉を殺す。そっと離れると翔は腕時計を確認して囁いた。 「そろそろ開きます。開店遅れた分上乗せになりますけど、隼人の件でこの部屋は取りません。あと、急いで来たのでプレゼント用意してないんです。なので、今夜は麗子さん専属でホストしますね」 照明に照らされ輝く髪と、麗子を見下ろす柔和な表情を包み隠す陰が実に美しいコントラストを作り出し、麗子は神々しい王子と妖艶な悪魔から同時にアプローチされているような感覚にのぼせられ、翔を引き寄せると彼の右耳にそっと囁いた。 「いいわ、じゃあホールの真ん中におっきなシャンパン立てて。あと、ここにたかぁいお酒いっぱい入れて」 すると今度は彼女の右耳へ優しく熱が注ぎ込まれる。その熱は高度のアルコールのように彼女の芯を熱くさせる。 「仰せのままに」
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