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一人残された部屋で翔はあくびをしながら体を伸ばすと、ベッドから降りて乱れた髪を掻きつつシャワールームへ姿を消した。数分後再び姿を現すと何一つ身に付けずにリビングらしい広い部屋に入り、使われた痕跡どころか何も無いキッチンの角に唯一置かれたダンボールから富士山のパッケージが巻かれたミネラルウォーターを1本手に取ると、壁に備え付けられた大画面の薄型テレビの前に囲む様にして置かれた黒い革製のソファにどかっと腰掛け、ミネラルウォーターの蓋をひねった。プラスチックが弾ける軽やかな音、不十分なタオルドライで乾ききらなかった髪から垂れ落ちる水滴が、湯浴みで火照った背筋や肩甲骨の隙間をゆっくりと滑り落ち、封を切られたミネラルウォーターが音を立てて翔の美しい喉仏を揺らし体内に落とされていく。まるで夏に流れるビールのCMを思わせる爽やかさと色っぽさを感じさせられるが――
「へっくし!!」
今は冬真っ只中である。
「寒いなぁ・・・」
そりゃ風呂上がりに髪も乾かさず裸でいれば寒いのは当たり前で・・・しかし、嬉しいか嬉しくないのかと言われれば嬉しい訳で・・・いやだがしかし翔が万が一にも体調を崩す様な事でもあれば――考えただけでもおぞましい。
「アレックス、暖かくして。あとテレビ付けて」
「いや、服着ましょうよ翔!むしろ着てくださいお願いします!アレックスも分かりました。とか言ってないでちゃんとサポートしてあげて!」
とはいえ想いは伝わる筈も無く――、翔は半分程残ったミネラルウォーターのボトルを前に置かれたガラス製のテーブルに無造作に置くと、何を思ったのかふらふらと寝室へ戻って行ってしまった。誰も居ない部屋でたれ流されるニュースは代わり映えのしないいつも通りの芸能ゴシップなどを撮りあげている。寝室で何をしているのか気になり始めた頃翔はリビングに戻ってきた。相変わらずの姿だが、片手にスマートフォンを掴んでいる。なるほどスマホが欲しかったのかと思っているとソファに寝そべってスマホを弄り始めた。何をしているのか気になるがここからでは画面を覗く術がない。諦めて転がる翔を眺めて堪能していると、付けっぱなしになっていたテレビから速報を知らせる声が聞こえてきた。どうやら暴走車が歩いていた母子に突っ込んだらしい。どちらも残念ながら即死のようで、運転手も意識が無いらしく運ばれた病院で死亡が確認されたそうだ。
「そんなに遠くないな・・・きっと美しい女性になって俺に会いに来てくれただろうに残念だ」
翔は悲しそうな表情でそう呟くと光るスマホの画面に視線を落とし、ため息をつくとスマホを操作しつつ立ち上がり洗面所へ入って行った。数分後美しく整えられた金髪を輝かせながら出てくると今度は寝室へ入ってしまった。寝室でも順々に身支度がされていく。どうやら外出するようだ。翔は一通り支度が整うと、エンドテーブルに置かれた封筒の中身を覗いて再び封をするなりスーツのポケットに突っ込んで外へ出て行ってしまった。
※ ※ ※
部屋を出るといつものようにスマホを取り出し宛先を選ぶ。【清掃さん】をタップしていつもの形式的本文。
仕事、お願いします。
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