夏、思い出

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小さい頃の夢は消防士だった。 自らの危険をかえりみず、他人のために消火活動を行う。まるでヒーローだ。 でも現実はそう甘くなかった。ヒーローに助けられるモブどころか、ヒーローにも助けられず死んでいくだけの存在だった。 半ば人生を諦めていた。 ただ母を心配させたくないがために、中学の勉強がほとんど無駄になるほどレベルの下がった落ちこぼれと言われる高校に通った。 そんなときだった。 その高校で一人の先輩に出会った。 わずか157cmという低身長で、バスケプレーヤーとして前線を走っている人だった。その人は僕の目にキラキラして見え、その人のプレーを見た時は初めてこの高校も悪くないと思えた。 先輩と初めて話した日、その日は悪い夢を見た。今まで言われてきた心無い言葉を一つずつ母に囁かれるのだ。 この夢は、母にすら嫌悪される日が来るのかもしれないという僕の恐怖から来るものだった。 ただの夢だと分かっていても、やはり気分の悪いもので、屋上で少し休んでいた。 三角座りをして落ち込んでいると、上から声が聞こえた。 「何泣いてんの?」 「...え?泣いてないですよ」 「俺のこと知ってる?」 「はい。愛染大智(あいぜん だいち)先輩ですよね」 顔を伏せていたので泣いていたと思われたようだ。 泣いていないと否定の言葉を口にすると、愛染先輩はそうかと小さく呟き、隣に座った。 隣に座っている自分より小さいはずの先輩の体が、妙に大きく見えた。 先輩は何も言わずに僕の隣に座っている。 僕がアイスであることを忘れさせてくれる対応だった。 今まで見てきた人とは比べ物にならないくらい優しい目をした人。 そんな先輩が僕の隣に座っている。 僕はその安心感に、聞かれてもいないのに僕の今までのことを全て話した。 たとだとしい震えた声で、一つ一つ言葉を紡いでいった。 先輩は、僕の話を黙って聞いてくれた。 そして話が終わると、今度は先輩のことを話してくれた。
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