もしも君と話せたら

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 オムツってどれを買っても一緒なのかな? でも赤ちゃんのやわ肌には、ふわっとしたオムツがいいよね。    ドラッグストアでの滞在時間が長くなったなあ。揃えるものが増えたし、おまけに安いし。仕方がないけど。あ、昌平にシェービングクリーム頼まれたんだ、それも買わなきゃ。  スマホが鳴った。寝ている泰稚(たいち)が起きちゃわないか焦ったけど、大丈夫だった。ママからだ。 「もしもし?」 「もしもし、奈々?」 「なに? どうしたの⁉︎ 泣いてんの?」 「ごめん、奈々。あのね、あのね…」 「なに、ママ、どうしたの? 落ち着いてよ」 「うん、あのね。洗濯物、部屋干ししてたんだけどね…。…窓際にいたリュウタが、リュウタが、息をしてないのっ」  頭が、真っ白になった。  リュウタ。初めて会ったのは、私が小学校の頃。友だちのゆいりちゃんが飼ってた柴犬が可愛くて、私も柴犬が飼いたいって、お父さんに駄々をこねたのが始まりだった。  いつも一緒だった。外で遊ぶのが好きだった。雨の日は元気がなかったね。ボールを投げると必ず取ってきて、一緒に鬼ごっこもしたね。  私が落ち込んで滑り台にいると、下から見上げていて、降りると寄り添ってくれた。  スマートフォンを初めて買ってもらって、嬉しくて、スマホばっかりいじってたら、スマホ咥えてどこかに走っていった。怒ったらその後いじけたみたいに、ボール遊びしてたっけ。  浜辺にも出かけた。砂浜に穴を掘って、砂をかけられたなあ。夕日を見ていて、リュウタに抱きついたら、口を舐めてきたっけ。  私が初めて家に昌平を連れていったら、なんか拗ねてたよね。ヤキモチかなとか思って。でも、泰稚が産まれたら、尻尾振って嬉しそうにしてた。  実家の玄関のドアを開ける。泰稚はまだぐっすり寝てる。よかった。  リビングにいるママが、泣いている。 「リュウタ‼︎」  思わず、声に出していた。  リュウタ。触ると、少しだけのぬくもりが伝わってきた。リュウタが生きていた証。 「リュウタ」  涙がたくさん出てきた。涙と一緒に、変な声も出た。安らかな寝顔だ。起きるんじゃないかって、錯覚するくらい。  とめどなく流れる涙が止まらない。こんなに、こんなに悲しいんだね。  別れっていうのは。  走馬灯みたいに、リュウタと過ごした日々が蘇る。だって、昌平や泰稚と居た時間より長かったから。  思い出がありすぎて、つらくなる。  最近、食欲もなくて、元気ないと思ってたけど。  ゴメンね、リュウタ。最期に側にいてあげられなくて。  もう一度、リュウタを撫でる。ほんのり温かい部分と、冷たい部分がある。この身体で、リュウタは私と一緒に生きてくれた。  リュウタ、幸せだったのかな? 私と一緒にいて。  私は、幸せだったよ。リュウタと出会えて。  リュウタ、今まで、本当にありがとう。たくさんの幸せをありがとう。どんな時も、リュウタがいたから、寂しくなかったよ。  さよなら、ありがとう、リュウタ。
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