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「ん……おや、珍しや。今日は誰も帳場におらん。皆、引き払っておるな? それとも皆んなして何か悪いものでも食べて腹でも壊したとか……」
ガランと、人気の無い帳場にやって来たのは、散々に悪口を言われていた左衛門さんですな。
「ん?何か置いてあるぞ?」
『甘いものに目がない』ってぇ、左衛門さん。いち早く『寅吉屋のドラ焼き』に眼を付けますと。
「ほほう!これは寅吉屋のドラ焼きではないか! 最近では仕事が終わって城を出る刻限では『品切れ』になっていて中々とお目にも掛かれん。誰か知らぬが、これは勘定方への『差し入れ』であろう。丁度、此処の帳場は拙者を入れて8名でござるしな! されば有り難く1個頂こう」
嬉々としてドラ焼きを頬張っておりますと……
「こら、左衛門!何をしておるか!」
何時の間にか、お奉行様が立っております。
「ごふ……ごふ!ああ、むせた! ……これはこれはお奉行様。如何されましたか?」
「如何?ではない……! その方、何故そのドラ焼きを勝手に食したのじゃ?!」
「え?こ、このドラ焼きにございますか? てっきりこれは差し入れかと……」
「馬鹿者! それは、明日お見えになる大宮様へ『おやつ』にと用意いたしたものじゃ! それを勝手に食べて如何するか!」
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