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これには左衛門さんも困り果てましたな。まさか『アレは場を和ますための冗談でして』だの『テープ回してないから証拠がない』とも言えません。
「さぁ?どうした?ささ、腹を切る支度をいたさぬのか?さぁどうした、はよ支度せねば陽がくれるぞ?」
顔を真っ赤にして苦しむ左衛門さんを尻目に、お奉行様が煽る煽る。
……しまった。さてはハメられたか。まさか『闇ドラ焼き』とは思わなかった! 思わずハンシャ的に食べてしまったわ。これは普段より拙者が『腹を切る』と口癖にしておるのを逆手にとられたな……
ギリリ……と口を噛みますが、無様に「どうもすいません、何卒お助けくださいませ」などと言おうもんなら、この後、散々馬鹿にされるのが眼に見えている。下手をしたら、俸禄が9:1に減らされるかも知れない。
ええい、どうにか、この場を誤魔化せないか……暫し悩んでおりましたが、意を決したように頭を上げますと。
「……承知致したした。されど、拙者にも身支度というものがござる。古来より切腹には『白の裃』という作法がござれば、そのように致したく存じ上げるが」
「ほほぉ、覚悟を決めたか。されば支度してくると良い。待っておるぞ?」
左衛門さん、それを聞いて退席致します。
「……お奉行様、大丈夫でしょうかね? あれ、本気で切腹しそうですが?」
後ろで隠れていた配下の者が心配しますが。
「何、大事ない。『いざ』という所で拙者が止めて説教致すゆえな。まぁ、引退だの解雇だのと言わせるつもりは無いわ」
そう言って、お奉行は笑っております。
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