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さて暫くして。
「……お待たせを致しました」
左衛門さんが戻って来ますが……
「おや?『白の裃』はどうした? 切腹の支度に戻ったのではないのか?」
見ると、左衛門さんは『出た時と同じ服』でございますな。
「ええ、もうそれは終わりましたゆえ。されば『これ』をお持ち致しましてござる」
そう言って、懐から何やら『包み』を取り出しますと……中から『ドラ焼き』が1個出て来ましたな。
「一足飛びに急ぎまして、寅吉屋にて買い求めて参りました」
それを見たお奉行様、見る見るうちに顔を真っ赤にいたしまして……
「こら!左衛門!これは如何な事か! 『1個無くなった分を買い足してくれば、それで良い』という話ではない! そういう態度だから、そなたは皆から嫌われるのだ!」
烈火の如く怒り、手がブルブルと震えております。
「まったく!お前という者を見損なったわ! 平素より何かというと『腹を切る』などと大層な事を申すので、『武士が腹を切るとは如何な事か』を身をもって知ってもらおうと思ったが……もう許せん! 『腹を切る』話は無かったとでも言うつもりであるか!」
すると、左衛門さん、シレっと頭を下げるってぇと。
「如何にも。されば、このドラ焼き。拙者が『自腹を切って』買ってき申した」
……お後がよろしいようで……m(_ _)m
完
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