21人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
椅子は思ったより柔らかく、体を包み込むようにふわりと沈んだ。
金髪の男と向かい合う形となり、右前に関西弁の男、議長席に59の男、隣に美しい女性。といった順で長テーブルを囲む。
ふと、左手の甲に付いているチップを見ると、完全に消灯しており、
どうやら本当にこの部屋はネットワークが遮断されているらしい事がわかった。
「貧乏ゆすりやめてほしいなー。」
金髪の男が関西弁の男に目を合わせずボソリと言った。
「あ?何指図しとんねん。殺すぞ。」
「死にに来たんだけどね。」
「テメー喧嘩売ってんのか。」
「いやいやそんなことはないよ。やっぱりなんでもないから気にしないで。」
関西弁の男はチッ、と舌打ちをした後、ジャケットの内ポケットから細長い筒状のものを徐ろに取り出した。
口に咥えて上下に擦ると白く光り、男の口から煙が漏れた。
タバコ、というものだ。
地球に害を及ぼすため、国はタバコの存在自体を歴史からも消し去ろうとしていると言っていたが、未だに吸っている人がいるなんて。
これを手に入れられるという事はこの男は裏社会の人間と繋がりがあるのかもしれない。
やっぱり僕はこの男と関わりたくない。
「タバコの持ち込みよかったんですね。」
59の男が羨ましそうに見ている。
見た目が15なので、タバコを吸う姿が全く想像できない。
「持ち込んだらあかん言われてへんからな。」
「そうですね。持ち物検査も特になかったですし。
それはそうと、早速話し合いをしませんか。ずっとこの部屋に監禁されるのは苦痛で仕方ないんです。閉所恐怖症なので。」
「俺、1人はもう決まってんで。生きる奴。」
「早いですね。」
関西弁の男はタバコを大きく吸って、塊になった煙を天井に向かって吐き出し、足を組み直した。
「お前や、中坊。59ならあと一年生きたら死ねるやんけ。一年くらい頑張らんかい。」
「はっはっはっは。」
59の男は反り返って笑い出した。
15の見た目の通りの、高い声で。
5秒ほど笑った後、急に無表情になり関西弁の男と向き直る。
「冗談はやめてください。えーと、名前なんでしたっけ、」
「京極や。」
「京極さん。あ、ワタシは河原です。
ロマンなんですよ。国の言う通りに死なず自分の選択で死ぬ事が。
これほど昂ぶる事はこの世にないでしょう。60を待って死ぬ?そんな馬鹿げた話やめてください。実に普通じゃないですか。普通じゃ嫌なんですよ。ワタシは今まで色んな死に方を試してきました。首吊り、リストカット、飛び降り、練炭自殺、電車へ飛び込み、細胞システムエラー薬。死を求めてたくさん金を使いました。だから新しい身体申請せずに15のままなんですけどね。
一番良かったのは飛び降りかなぁ。あれは気持ちが良かった。
でもまあ、何をしても結局、生き返るんですよ。結末はいつも同じ。
飽きたんです。正直。だから最後くらい普通じゃない、国に縛られないワタシの選択で死にたいんですよ。一年生きるのを頑張るか頑張らないかではなく、今死ぬか死なないかなんです。それをあなたの勝手な判断で決めつけられたくはありませんねえ。
ところで京極さん。あなたは何故死にたいのです?。」
突然饒舌になり目を見開いて熱弁する河原。
流石の京極も思わずタバコを吸うのを忘れていた。
金髪の男はニッコリと笑っている。僕と女性は黙ったまま、ただ聞いていた。
最初のコメントを投稿しよう!