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1-1
幾年もの歳月が流れ、允は十八の誕生日を迎えた。その年になっても、よほどのことがない限りは外へ出してもらえることはない。
そのせいか、やがて成人が近いというのに、体の発達もどこか未成熟で、平均かそれ以下しか背がなく、骨格も細い。そして、あどけなささえ残している。
允は閉じ込められて生活するのが当たり前になっていたが、外の世界に対する憧憬は年を追うごとに強くなった。
なぜ自分が閉じ込められなければならないのか、それは熟知しているつもりだが、未だ身内しか周りにいないために、恐ろしい目にも遭ったことがないので、実感を伴っていない。
時折、訪ねてくる独り身の従妹などが、允を異常に見つめてくることがあり、他の身内に庇われるように連れ去られてしまう時、自分が酷い感染症でも持っているように思われた。
そして、允は現実を突きつけられ、より一層孤独を感じるのだ。
「允、この薬はね、あなたを守るためのものよ。絶対に肌身離さず持ち歩くこと」
そう言って母に渡されたのは、フェロモンを抑制するための薬だった。
何度か医者に罹り、強い薬を処方してもらっているのだが、果たしてちゃんと効いているのか分からない。
この年になっても、まだ発情期を迎えたことがないにも関わらず、常に放出しているらしいフェロモンは允にとって毒のようなものだ。
独り身のα性とβ性を無差別に引き寄せる毒は、害にしかならない。そして自由を奪うというおまけつきだ。いっそ命を奪うような毒の方が良かったのかもしれないと自虐的に考える。
せめて一度くらいは外に出してくれないかと親に頼んでみたが、提示された条件が、身内を刺激しない程度に抑えられるようになったらで、それをどうしてもクリアすることができないままだった。
「もう少し我慢してね。だいぶん研究は進んでいるはずだから。もっと強力な抑制剤と、それからあなたの体質を治す方法を見つけるまでは」
そう言って諭され続けて、十数年。もはや望みは薄いか、皆無に近いのではないか。このまま親に従って、死ぬまで自由にしてもらえずにいるのではないか。
恐ろしい考えを捨てきれず、同時に募る外への切望も抑えられなくなった時。ようやくチャンスが巡ってきた。
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