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 気が付けば、允は薄暗い倉庫に一人取り残されていた。裸に剥かれたまま、体中に男たちの精液がこびりつき、股間や双丘の奥の方も鈍い痛みを発しながら、どろりと生ぬるく気持ちの悪いそれらが零れ落ちている。  犯されている時は、男たちの欲情に煽られたのか、允も人生で初めて発情期を引き起こし、不快に思いながらも体は夢中で求めてしまっていた。  そのため、痛みこそあれどさほど苦痛ではなかったのだが、終わってしまった後は絶望に覆われた。  不幸中の幸いか、男たちは允を番にまでしようとはしなかったので、ひととおりまわして滅茶苦茶に犯すだけ犯してしまうと満足して允を置いて行った。  放心状態に陥りながら、允は涙を溢すこともできずにそのままの格好で横たわり続ける。どちらにしろ、この倉庫から自宅に帰る道は分からない。  きっと心配した家族が捜索に来てくれると信じ、今はただこのまま眠ってしまおうと瞼を閉じる。  翌朝、待ちわびた両親の声で目を覚ますと、見慣れた自分の部屋にいた。倉庫に駆け付けてきた時、允は泥のように眠り込んでおり、体は発熱していたために急いで自宅へ連れて帰ってもらったらしかった。  不思議なことに、男たちに犯されたことで異常なほどのフェロモンが通常レベルまで収まったらしく、事件の後は出歩くことを許されるようになった。  それでも再び何かがあった時に備えて、軽い護身術を覚え込まされ、抑制剤を持ち歩くことは允も細心の注意を払っている。  そして、自由を得る代償になったあの事件を機に、外への恐怖を覚える暇もないまま、允の中に新しい命が宿ってしまったのだった。無論、あの男たちの誰が子どもの親かは分からない。 「本当に産むの?」  母親に何度も聞かれたが、允は何度も同じ答えを返した。 「うん。子どもに罪はないから。辛い目に遭っても、僕が守ればいいよ」  その言葉も、目に宿る強い意思も、両親共々身に覚えがあることだった。既に彼もまた、立派な親の顔になっていたのだ。  允と同じように自宅で産まれたその子どもは、幸い允とは違うβ性だったので、そこで親族の間に安堵が広がった。  しかし、誰よりも安堵していたのは允自身で、自然と涙を溢してしまいながら、ノアと名付けた。ノアの元気な産声を聞きながら、どんなに辛く苦しい未来が待っていたとしても、この子さえいれば乗り越えられると思った。  
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