3485人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
聞かれる女
中野と同時に総務に入ってきた谷川さんは、第一印象の良いタイプだ。
常に少し、感じ良く微笑んでいるような彼女は、例えるなら“人に道を聞かれるタイプ”
ビルの総合受付にいる彼女は、言わば会社の顔だ。彼女の対応次第で、時には会社の評判も変わる。
彼女は申し分無く会社に貢献してくれている。
ただ……
「あの受付のお嬢さんは、ご結婚なさってるのかしら」
年輩の女性からの問い合わせが多い。俺を通せば、堅苦しいものになるだろうし、恋愛くらいは自由に。
それに、彼女は相手に不自由していないだろう。
────数年後
一緒にいる二人を見かけた。同期で同じ総務だしな。中野と谷川さん。
中野が珍しく苛立ちを顔に出す。……仲が悪いのかと思ったが、中野は彼女の手を取ると、自分の腕を持たせた。
ああ、そういうこと。ちょっと意外だったけれど
まあ中野はなんだかんだうまいんだよな。
「谷川さんって、ほんと感じがいいのよね、えっと、案外あれだけれど」
綾が言った。
「あれって何だよ」
「綾さん! いいんですって! 」
中野が慌てて止めた。顔が赤い。
「案外ね、肉食なのかもしれませんね、可愛らしい見た目なのに……」
宮が楽しそうに言って、中野が宮を睨んだ。
なるほど、案外……こっちが食われてんのかもな。
最初のコメントを投稿しよう!