25号室の怪 ~あの子が残したもの~

1/4
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「明朝、イギリス軍の捕虜(ほりょ)が10人、到着するぞ」  K国の収容所の所長は、所長室で電話を切るとつぶやいた。   ――それは、第二次世界大戦が始まって、数年後のことだ――  中立的な立場にあるK国――その南方にある収容所には、色々な国の捕虜が収容された。  その日、護送されてきた10人のイギリス兵の捕虜は、敷地内の南端に位置する25号室に収容された。  そこは他の部屋と同様に、六帖ほどの広さの薄汚い部屋で、二段ベッドを改造した三段ベッドの他にはトイレと小型の机があるだけだった。  イギリス兵の捕虜が、その部屋に収容されてから1週間ほど経ったある日の午後、1人の看守が血相を変えて所長室にやってきた。  所長は、その男からの報告を聞いた瞬間、椅子から立ち上がり、 「なにー? イギリス兵を収容した25号室に、女がいるだとー!」 「はい……どうやら、そのようです……。それも若い……」  所長は、ゆっくり椅子に座り直すと、 「しかしな、この収容所の監視は完璧のはずだ。女が所内に入れる訳がないだろう。思い過ごしじゃないのかね?」  今度はゆっくり立つと、部屋の中央にある応接セットのソファーに座った。 「はい、最初は私もそう思ったのですが……隣の24号室のアメリカ兵から、25号室に女がいて、時々、会話している気配がすると……」  所長が葉巻を手にしたので、看守Aはあわてて(そば)のライターを使った。 「当然、イギリス兵にも()いたんだろうね?」 「はい。ですが、そんな女なんているハズがないでしょう、と苦笑しておりました……」  所長は葉巻を灰皿で消すと、デスクに戻り、 「その時、室内に女がいるか確認したんだろうね?」 「はい、無論です。全員、廊下に出してから、ベッドの下やトイレの陰も調べました。しかし誰もいませんでした」 「じゃ、24号室のアメリカ兵の勘違いだろう……」  所長は笑いながら、近くの雑誌に手をやった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!