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間違いなく、彼女は私の友達だと、思っていたときもあった。
でも…今はわからない。
「この壁のむこうにいるのは…かなえ、だと思います」
烏森かなえ。
彼女は、私の同級生。
今は違うけど、同じクラスだったこともある。
私とは真逆ともいえるくらいの属性を持つかなえは、昔から、すらりとした背の高さにあわせてスタイルがよくて、おしゃれで、美人で、いつもにこにこしてて、勉強もできるほうだったし、先生からも信頼され、社交的で友達もたくさんいた。
そんな彼女の姿を、小学生の頃から私は、遠くからみつめていた。
「へえ、それでまた何だって、かなえさんという人が壁のむこうにいるって思えるんですかね、あなたには」
早くここから出ていけというわりに、猫さんは暇してるんだろうか。
変に興味がわいてしまったのか、やたら詳しく聞いてこようとする。
さっきからの態度も総合して考えてみると、この猫さんにはやはり、おばさん属性があるのかもしれない…と私は思った。
なぜ、この壁のむこうにいるのが、かなえなんだと分かるかっていったら、それは小学校時代から培ってきた、私の特殊能力…かなえの気配を遠くからでも探ることができる、その力の賜物なんだと思う。
小学生だったころの私は、いつもどきどきしながら、かなえがやってくるのを待っていた。
教室を移動するとき、休憩時間、ここをかなえが通るんじゃないかって、そしたら少しでも会話をするチャンスがあるんじゃないかって、常にいま彼女がどこにいるのかをピンと意識を張って過ごしていたから。
そんな私のどうしようもない習慣は、高校一年まで続いていた。
「気配でわかるんです、不思議なことに。
となりにいるのは、かなえだって、たとえ壁があったとしても」
こんな言い方をしても、猫さんには伝わらないだろう。
あるいは、変なヤツだと思われて、ますます塩対応をされるかもしれない。
私はそう思ったのだけど、意外にも猫さんは私の話を聞いて「ふうん、まあそういうこともあるんでしょうね」と言って、あっさりと納得してくれた。
「で、そのかなえさんという人は、お嬢さんの親しいお友達なんですか?」
「えっ?」
「えっ? じゃなくて、だって親しいからこそ、その人の気配が分かるってことなんじゃないですか?
どういう人なんです、かなえさんは」
「どういう人って…私にはよくわからないんです。
もうずっと口もきいたことがなかったし、そう…目すら合わせたこともなくて。
だから、かなえがどういう人なのか、私にも分かりません」
こういう言い方しちゃったらアレだよなー…ちゃんと答えようっていうつもりがなく、適当なこと言ってるって猫さんに思われちゃうかなー、って心配になっていたら案の定、猫さんの声色がまた不機嫌っぽくなってしまった。
「はあ? なんですかそれは? じゃあ何にも知らない他人なんですか、かなえさんは? でもお嬢さんは彼女のこと、かなえ、って親しげに呼んでるじゃありませんか。
かなえさんにとって、お嬢さんは、知らない人なんですか?」
「いや、知らない人ではないです…。
かなえも私のこと、みく、って呼び捨てにするし」
ここでお互いに知らない人ですって言っちゃったら、確実に私やばいヤツでしょ、それただのストーカーじゃん。
「だけど知ってる同士だからって、友達とは言いきれない、…そうでしょう?」
かといって、こんな言い方をしたところで、猫さんに伝わるだろうか?
こういう感覚をもつのは人間だけかもしれないし、…あるいは、私だけなのかしれない。
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