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act.2
「揚羽さん、今度新入部員が入るんですってよ」
ある日の、紅茶部で過ごす時間。同級生で隣のクラスの女の子、千鶴(ちづる)が教えてくれた。クラスが違うので体育などの合同の授業でしか一緒にならないのだが、部活では仲の良い女の子だ。
千鶴は、昔ながらの家の生まれであるとかで、友達に対しても「さん」付けで話す、品のいい子。下賤な噂話や悪口なんかとはまるで縁のない子であったので、私にとっては良い友達だった。
「そうなの。どんな子かしらね」
「かわいい子だそうよ。一年生ですって」
秋も深まる折のこと。春に入学した一年生も、もうすっかり特定の部活に落ちついただろうに。
「転部かしらね」
居た部活でなにかあったのかもしれない。トラブルだの、単に肌に合わなかっただの。
でも別におかしなことではない。たまにはあることだろう。
「そうだと思うわ。今度部長が連れてくるって……あ」
千鶴が言いかけたところで、まさにその部長が入ってきた。
そして、紅茶のような深い茶色の髪をしている三年生部長のうしろから、その『新入部員』であろう子が入ってきた。
鮮やかな金髪。肩までさらりと落ちている。くりっとした丸い目をしていて、やや幼顔。
だというのに、私が感じたのは何故か色っぽさだった。
別に制服は着くずしもせずにきちんと着ているし、秋なので肌の露出も少ない。外見から色っぽさを感じる要素なんてないのに不思議だった。
「一年B組の鉢谷 舞季(はちや まり)といいます。どうぞよろしくお願いします」
鉢谷、と名乗ってその子はにこりと笑った。人好きのする笑顔だった。
今日、部室にいた部員たちもすぐに気に入ったらしい。一年生から三年生まで彼女を取り囲んで、あれこれ彼女のことを質問したり、もしくは部活についてを教えたりしはじめた。
彼女はそれに答えたり、部活や部室のことについては、はい。はい。と素直に返事をしながらメモを取った。素直で誠実な子のようだ。
この日の部活の時間、私は彼女と直接話をしなかったが、はたから見ていてそう感じた。
まぁ、単純に好印象ではあった。
けれど私の目には、何故か『色』が見えた。どこか艶っぽい空気があるのだ。別に遊んでいるとかそういうものではないと思うのだけど。
ひとからそういう空気を感じたことはなかったので、私はちょっと戸惑った。
好印象と、不思議な感覚と、少しの興味。
彼女との出会いはそのようなものだった。
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