第五章 お

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第五章 お

その日から僕達は毎日のように遊んだ。君と一緒にいる間は、時間が過ぎるのが早く感じて、気づけば数ヶ月が経過していた。ずっとゲームをしたり、アニメを見たりしたが、その中でも一番楽しかったのは君の話を聞くことだった。 しかし、相変わらず、僕は君と喋ることができずにいた。夏休みが近づくにつれて、だんだん君と遊ぶことは減っていき、次第に君の口数は少なくなっていった。僕は、「どうしたの?」と聞くこともできないまま、夏休みを迎えてしまった。 ――夏休みが明けて、僕は少し景色の変わった教室に入った。夏休みの間、僕はずっと一人で過ごしていたので、すぐに君に会いに行った。しかし、君は僕の存在を完全に無視するようになってしまっていた。僕は君に、夏休みの前に何があったのか聞こうとしたが、ただ君の横をついて歩くことしかできなかった。これじゃただのストーカーじゃないかと思ったが、君が離れてしまうことが不安で仕方なくて、できる限り近くにいるようにした。そんなストーカー生活が一ヶ月続いたある日、ようやく君が口を開いた。 「付いてくんなよ!」 思いもよらぬ一言に、僕が何も言えずにいると、君は早口で怒鳴りつけるように続けた。 「お前さ、もう私が避けてるのわかってるだろ? ずっと無言で付いて来やがってキモいんだよ! なあ、言いたいことがあるならさっさと言えよ! ちゃんと自分の口で言えるだろ? 普通に喋れるんだろ? 本当に何にも言えないんならさぁ……ウザいだけだから、声帯切っちゃえよ。死ね!」 僕は、 「ごめん」  と言った。 ――しかし、君には聞こえていなかったようで、いつの間にか、君は教室からいなくなっていた。僕は君を追いかけて外に出ようとしたが、 「おい、ちょっと待って」  教室の後ろのドアの方から突然、聞き覚えのある声に呼び止められた。振り返るとそこにいたのは、君の親友だった。 「実は……」  彼女はそう言うと、数秒間深呼吸をしてから、話し始めた。 「実は、小学生の頃、あの子は、君と仲良くしてあげてほしいって先生に頼まれてたみたいなんだよ。だから、その時から何度も君に話しかけてたらしい。それなのに、君が全然喋らないから、あの子はほとんど諦めかけてたらしくて、中学生になってから私にそのことを相談してくるようになったんだ。でも私は、無口な君と仲良くなれる人なんていないって思ったから、やめたほうがいいって否定ばかりしてた。それでもあの子は、君と仲良くなることをなかなか諦めなかった。そしたら、いつのまにか、あの子は君と毎日のように二人で遊ぶようになっていたんだ。そんなある日、あの子は、誰にも言わないでねって言ってから私に恋愛相談をしてきた。やっぱり君の話だった。でも、その日からあの子は、まるで君から逃げるかのように私に相談に来ることが増えた。二人で話している時、あの子は、『毎日遊んでいても全然心を開いてくれない』とか『私は嫌われてるんだ』とか言って、よく泣いていた。それで、見かねた私が、もう諦めたらって言ったら、あの子は君を無視するようになった。私への相談もほとんどしなくなって、明らかに無理してるって感じだった。そして、今、とうとう限界が来て、あんなことを言ってしまったんだと思う。言い方は最悪だったけど、あの子はあの子なりに君を諦めようと頑張ったんだと思う。だから許してあげてほしい。私から代わりに謝るよ。ごめん」  僕は、何も言えなかった。
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